[2nd night]
4ヶ月というのは、心の平静を取り繕うにはあまりにも短すぎる期間だった。
パーティーからこっち、やはりわたしの前に顔を出さない未来の旦那さまを、果たして自分はきちんと好きになれるのだろうかと(愛するのではなく)自問を繰り返し、そのたびにあの挑戦的なアメジストを思い出して慄いた。それでも、わたしのそんな懸念が時の流れに反映されることはずもなく、むしろそれは一層早く過ぎ去っていき、そしてわたしはいつの間にか、純白の花嫁になっていた。
「お綺麗ですわ、お嬢様!」
メイド頭が大袈裟に手を叩いてみせると、お追従のように周りのメイド達も喚声を上げた。いささかわざとらしい所作だけれども、わたしはそれに感謝しなくてはいけない立場だった。
なぜなら、彼女達は知っているから。この結婚に、とてつもない数の懸案事項があることを。
「ありがとう。みんな今までお世話になりました」
だから幸せそうに微笑んでみせる。ともすればすぐに下がってしまう口角を、引き上げるのにはだいぶ苦労をしたが、そうすれば、少なくとも彼女達の懸案は少しは減ってくれるのだろうと思った。
それだけが救いだ。わたしの懸案事項はどうであれ。
でもやっぱり、鏡の向こう側のわたしは綺麗でもないし、幸せそうでもなかった。感情のない、空っぽな陶器のお人形の方が、よほど中身が詰まっているような気がする。こげ茶色の髪はくすみ、月色の瞳は空虚で、それでなくても白い肌は、不健康に見えるほど透明に近い。
あんなに莫大なお金を賭けた花嫁がこんなのなんて、可哀想に。
鏡の向こうの自分を見つめながら、わたしはほとんど顔も覚えていない婚約者に同情をした。
愛し愛されている女は綺麗だという。愛し愛されている男は輝くという。けれど、どうだろう。おぼろげな記憶の中の彼は、そんなものなくても十二分に輝いていた。わたしの入り込む隙間なんてないくらいに。
結局のところ、わたしは特に必要のない存在なのかもしれない。思えば少し、気も和らいだ。本当は重荷にさえならない方が、よほど望ましいのだけれど。
とにかく、ヴァージンロードはすぐそこにまで迫っていた。本当はわたしは通ってはならない、真っ赤な無垢の道は。