[epilogue]
彼がわたしを抱き寄せた。
大切なものを囲うように、そっと。
* * *
「ずっと自分を、君を愛する婚約者から奪ったヒールだと思ってた。だから昨日も、カルスに請われるまま君を渡した。直後に散々後悔をしたが……
結局カルスに迫られている君を見て我慢出来なかった」
「ずっと見ていらしたんですか」
「どうしても気になってね」
アメジストが寂しげに細まった。
「君に愛していると言われた時の驚きは言い表わせないね。もう絶対に手放せないと思った。
エリゼ、私はもう君にだめになっている」
顔が赤らんでいくのが分かった。
だから、「そういえば」と話題を変えたのは、単にそれ以上赤面させられないためだった。
「プラチナ、というのはなんでしょう」
すると、途端に端正な顔が凍りつく。
「それは………」
言いにくそうに口籠もる彼は初めてで、思わずわたしは吹き出した。
そしてそれを面白くなさそうに見ていた彼が、唐突にわたしに覆い被さった。
「エリゼ、実はまだ起きるには少し早い時間だ」
「え、えぇ」
「なら時間を有効に使わないか?」
「あの……ウィリアム?」
「存分に愛し合おう」
耳元で囁かれた言葉は甘く、重なった唇は熱かった。
元々なにも纏っていなかった肌に、また彼の印が刻まれていく。
荒くなった息、途切れ途切れに、わたしは伝える。
「貴方がヒールであってもなくても、わたしは貴方を愛しています」
―――――と。
fin.