[17th night]
「昔から美しい子だとは思っていたが……また随分と綺麗になったものだねぇ。嫁に貰えなかったのが惜しい」
デオナール伯爵――カルスの父親は、そう言って少し苦々しげに微笑んだ。
背は少し低く、恰幅のいい紳士。グレーの髪を後ろに撫で付け、鳶色の目を輝かせて、自慢の口髭を頻りに触っている。
そういえばカルスは昔、自分は母親似だと言っていた。
背の高さも、髪の色も、瞳の色も――
「女の子は愛されると美しくなると言うが……やはりうちの息子では役不足だったようだ」
ふと耳に届いた言葉は、わたしを落胆させた。
そんなことはないと、本当は声を荒げたかった。
愛されてはいない。
そんなわたしがどうやって綺麗になるの?
隣に立つ夫を見上げると、彼は実に社交的な、困ったような笑みを浮かべていた。
「カルス子爵のご婚約者を奪ってしまったようで大変心苦しいですよ。妻も罪悪感が消えないようです」
さらりと言ってのける。
暗に、カルスがわたしの純潔を奪ったことを咎めて。
デオナール伯爵の顔が分かりにくく歪んだのを知ってか知らずか、彼は更に続けた。
「けれど本当ですね。我が妻ながら、綺麗になった」
向けられた笑みに、どきりとする。この笑みも社交用の顔なのだろうか。
愛おしそうに、目尻は下がって、唇は柔らかな弧を描いて。
アメジストはわたしだけを見つめて、少しだけ寂しそうに揺らぐ。
「そんなこと……ありませんわ」
赤くなった顔を隠すように俯けば、頭の向こう側で豪快な笑い声が聞こえた。
「これ以上は新婚さんに当てられそうだ。
まあとりあえずゆっくりしていってください、ローデンバーク公爵」
そして、デオナール伯爵は別の招待客のところへ移っていった。
そして父親と入れ違うように、目の前から金糸の髪と深緑の瞳を持つ男が歩いてきていた。
「カルス………」
呟きは、シャンデリアの光に消えた。