表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/27

[16th night]

 見知った執事に出迎えられた。



 わたしが覚えているのより少し年老いた彼は、きりりとした表情を少しだけ緩めて、よく知った人間にしか分からない親しげな笑みを浮かべた。



 けれど声音は今までと違ってひどく丁重で、「ようこそおいでくださいました、ローデンバーク公爵夫人」と夫の次に頭を下げられた自分が、昔の自分とは違う、どこか遠い世界の住人のように感じられた。






 昔はよく、カルスと家の行き来をしていたものだった。


 デオナール邸の古参の使用人達とはほとんど顔見知りで、主人と爵位の変わらないロベルカの息女を、皆自分の邸宅の子供同然に扱ってくれた。



 いずれはここの人間達が、本当に自分の使用人になると信じて疑わなかった。



 それはカルスへの憧れの延長線上にあった、確信めいたもの。






 隣にすらりと立つ、今は一番に愛しい人をそっと見た。




 彼があの時、わたしの元に現われなければ、わたしは愛に絶望したままカルスに抱かれていたのだろうか。


 恐怖に駆られたまま、ただあの痛みに身を沈めていたのだろうか。



 分からない。



 わたしが識っているのはこの人だけだから。

 冷酷で優しい、この人の熱だけだから。




「どうした?」



 見つめすぎたのか。


 覗き込むのは綺麗なアメジスト。



 わたしはふるふると首を横に振った。



「具合が悪いなら、帰ってもいい」


「それはあなたにご迷惑が……」


「気にすることはないが、まあいい。挨拶に回る」



 彼の表情が一瞬、歪んだように見えたのは気のせいだろうか。



「ウィリアム?」


 

 背を向けた彼を思わず呼んでみせると、彼は少し驚いたようにわたしを見つめた。



「本当に大丈夫か?」


「え、ええ」


「このまま帰っても、構わないんだ」



 緩く上げた髪にそっと触れながら、彼はなぜか苦しげにそれを繰り返す。



「妻としての役目は、果たします」


「……そうか」









 アメジストの内の光が、揺らいだ気がした。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ