[14th night]
夢を、見るようになった。
叶うこともないだろう、哀しくて優しい夢。
朝の微睡みの中で見る、暖かくて残酷な夢。
わたしは何を期待しているんだろう。
彼は愛は要らないと言ったのに。
それは裏を返せば、彼もわたしを愛することはないということ。
毎夜睦み合うのは、彼の跡継ぎを宿すため。
彼は皮肉って愛し合うという表現を使うけれど、本当は合っているわけじゃない。わたしが勝手に、彼を想っているだけ。
なんて空虚な想いだろう。
とても儚くて脆くて、告げた瞬間には消え去ってしまう。
だからせめて、夢の中だけでも愛されていたいと思うのかもしれない。
それはいつも同じ夢。
今宵も、また。
わたしは柔らかな陽だまりの中にいて、誰かにしっかりと抱き締められていた。
「……カルス?」
かつては幾度もわたしを包んでいた温もりを思い出して、あなたはこんなところでまでわたしを苛むのかと非難めいた――おそらく彼が最も嫌う――口調で名前を呼べば、今度はぐっと抱き寄せられる。
痛みを感じるほど強く。
そして気付く。
これはカルスではない。
こんなにも強烈に、わたしを捕らえて放さないのは、カルスなどではない。
「ウィリアム………?」
そして自分でも驚くくらいに自信のない声は、現では一度も呼んだことない名を呼んだ。
すると、はっとしたように束縛は緩くなって、その代わりのように武骨な指が髪の間に差し込まれた。
ゆっくりと、抱き込むように指を滑らせる動作は、まるで問いの答えを言い当てた子供を誉めるよう。
けれど、思わず頭をその胸に擦り寄せるようにしがみつけば、途端にやんわりと身体を離されてしまった。
そして影は、軽く唇を合わせ、耳元に囁きを落とした後、ひとつ髪を梳いて去っていった。
「愛してる」
たった一言を。
温もりが離れていった寂しさに目を覚ませば、現でもわたしは広いベッドに1人きりだった。
「一人寝はさせない」と。
彼の甘い声が、頭の中で哀しく響く。