[11th night]
アメジストは寂しげな陰りを帯びて、青みを強く放っていた。
その宝石はとても綺麗。
わたしは思わず、手を伸ばす。
* * *
無意識に伸ばした右手は当然のごとく宙を切り、彼はそんなわたしの動作眉訝しげに眉を寄せた。
「どうした?」
「いえ、ただ……」
「ただ?」
「ただ、綺麗なアメジストだと……」
「アメジスト?」
「瞳が……」
「………」
言葉が無くなり、居たたまれなくなって俯いた。
不思議な沈黙だった。
わたし達の間には流れたことのなかった、何かを孕んだような――
「……と、思うか?」
「え?」
意識していた時よりも、声は近くで響いた。
驚きに俯いた顔を上げれば、彼はもうわたしの傍らにいた。
「もっと間近で見たいと、思うか?」
耳元に落とされた囁きは、夜闇に紛れて妖しく消える。
熱を含んだテノール。
わたしは何かに取り憑かれたかのようにぼんやりと首を縦に振り、そしてそのまま夜着に目線を落とした。
「………でも」
「でも……なんだ?」
「わたしの顔は見られたくない、です」
「なぜ?」
「きっとひどい顔……」
「そんなことはない」
「違うの……違うんです」
「何が、違う?」
「泣き腫らした眼なんて……見られたくない」
そこで、彼の声のトーンが少しだけ変わった。
「泣いたのか? なぜ?」
問い掛けるよう。
言い聞かせるよう。
彼が掴めない。
「分からない。分からないんです」
彼は一瞬何かに逡巡して、そして問うた。
「でも、アメジストは見たいんだろう?」
こくりと頷けば、顎に人差し指を掛けられ、そっと持ち上げられた。
「見ていればいい。森に迷い込むことのないように」
アメジストが、他の何より近付いた。