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[9th night]

「君は謝ってばかりいるんだな」


 彼はどこか自嘲的に笑った。

 

 なんでそんなに、寂しそうな眼をするの?





 *          *          *





「この生活を好いてくれとは言わないが、せめて慣れるくらいはしてほしいものだ。これから夜会に出るたびにいらん詮索をされることになる」


「詮索、ですか」


「夫婦仲の不和が噂されると、寄り付く女がまた多くなる。せっかく結婚を女避けにしようと思ったが、そうなったら意味が無くなるだろう」


「はい……」


「別に愛せとは言わない。だが、愛している振りくらいは完璧にしてくれないと困る」


「ですが………」


「まだ、何か?」



 もう言うべきことは全て言ったという意思表示か、すでに食事を再開していた彼は、今度は手を止めることなくわたしに問い掛けた。



 片手間のような会話になぜか胸を痛めながら、けれど疑問は口にせざるをえなかった。



「わたしが妻では、どちらにしろそういった女性が絶えないのではないかと……思います」


「……どういうことだ?」


「あなたの隣に並んで相応しいのは、もっと大人の女性ではないかと………わたしのような幼くて、色気の無い子供などではなく」



「それは、逆に言えば君の隣に立つのが私では相応しくないと言っているようだな」



「いえ、そんなつもりでは……」


「確かに、君の隣に立つのにはカルスのような青二才の方が似合うかもしれないが」



 嘲笑(わら)いながら繰り出された鋭い攻撃に刺されて、あのカルスに組み敷かれたときの恐怖を思い出し、わたしはそっと身震いをした。



 すると、彼は何か勘違いをしたのか、やはり自嘲気味に笑うと会話を切り上げるように言い放った。




「似合う似合わないの問題ではないだろう、すでに。私達はもう結婚したんだ、どこにも逃げ場はない」




 それはまるで、彼が本当は逃げ場を探したいのだと言っているように聞こえて、わたしは思わず俯く。






 そのまま食堂は沈黙で満たされ、優秀な使用人達は夫婦の喧嘩ともつかない冷たい諍いを無かったことにすべく、いそいそと立ち回っていた。






 最終的にその重い空気を破ったのは、クラブに行くことを執事に告げた彼の低い声で、わたしはそれを俯きながら聞いているだけだった。



 一言も言葉を交わすことなく出ていった彼を思いながら、わたしは結婚から2日目にして独り寝をしなければならなくなったことを悟った。








 そっと眼を閉じると、膝の上のサテンにはいくつもの小さく濃い染みが散っていった。


 なぜこんなに胸が痛いのか分からない。


 けれど確かに、彼の付けた赤い跡の奥に痛みはあった。




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