↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR

埋もれた短編

とある冒険者パーティの追放話

作者: 平松冨永
掲載日:2026/10/11




「トーア、君をこのパーティから追放する」


 目的地である『選聖ダンジョン法国』の国境砦。選別衛兵と呼ばれる兵士たちの前で、僕は所属パーティのリーダーから、そう告げられた。


「アル、君もこのパーティから追放する」


 リーダーは次に、僕の隣に立っていたアルにも同じことを言った。

 無表情だが剣の柄に手を掛けている兵士たちが微動し、簡易な椅子に座っている書記官──入国申請書を受け取り内容を黙視していたが男が、羽ペンをインク壺に入れ、紙面に線を走らせる。

 僕たちの名前、種族、ジョブ名、スキルといった項目を削除する代わりに、二重線で消しているのだろう。


「該当者はパーティ証を代表者に返還……確かに。それでは入国希望者は『多彩勇者』パーティ所属の十一名、他に変更はありませんね?」


 僕たちが冒険者タグから外した金属板をリーダーに差し出したのを見、羽飾りがある兜を被った兵士長らしき年長者が、告げる。


「ありません」


「では、審査室へ」


 荷を担ぎ直したリーダーと仲間たちが、先方の誘導に従い奥へと進む。

 僕とアルも、地に下ろしていた得物を拾い、重い荷を担ぎ上げると──背を丸めるような姿勢で、彼らとは逆方向へと歩き出した。

 今日まで向かい、進み続けてきた隊商路へと戻るように。



   * * * 




 半日かけ、隊商路を東へと歩く。

 小山を迂回し、分岐路がある目印の木立のところで、僕たちは足を止めた。


「……大丈夫か、トーア」


「うん」


 鈍重な槍を携えたまま、一応周囲を窺ったアルが、やっと声を発する。


「誰も追跡してきていない。監視塔からの視線ももう届いていない。使い魔の気配もない」


「あー、やっと喋れる!」


 絶望から無表情になっていた、という演技をやめたアルは、にぱっと笑い荷を下ろす。


「しっかし、聞きしに勝る国だな、マジ」


「山の手前までは、監視塔からアルの尻尾を見てたよ」


「マジか。リザードヒュームの尻尾って、あっちじゃ食ったり売ったりできるのか」


 アルのあっけらかんとした物言いに、つい僕は噴き出してしまう。


「知らないよ。そうだったとしても、僕がそんなことさせないよ」




 * * * 




 頬まである口を開いたアルは、ちょいちょい、と奥の牙に指をやった。朝食べた干し肉の繊維が、また挟まっていたのだろうか。

 荷の横に座り込むと、水筒を出して上を向く。そうしないと口の端から水がこぼれてしまうので──鼻から先、口吻が長い種族は少し面倒そうだ、と毎回思う。


「種族差別って、本当にあるんだな」


「純人間しか入国できないとか、やっぱり意味が分からないけど……試験にもあったよね? 他にも色々」


「座学では習ってたけど実感がなくてな……まあ、そういう国も本当にあるんだな。勉強になった」


 特に傷付いた様子もないアルに、僕はなんだか申し訳なくなる。僕は一応、種族的には純人間で──アルを奇異の目で見、徒手空拳状態にあった彼に過度の警戒を向けていた兵士たちと「同類」なのだから。


「でもさ、トーアはヒトなのにダメなんだな」


「肌の色が違うから」


「言うほど違うか?」


「ヒトの目で判別できる色彩の差、があるんだ。目鼻立ちや髪の質、骨格も違うと『別物』扱い」


「……ううん、そんな風に習ってはいたけどさあ、オレやっぱ、よく分からんわ」


 僕は立ったまま、水を飲む。行動食と保存食と水樽で重い荷袋を下ろし、今朝まではもっと軽かったよなあ、と仲間たちのことを思った。




 * * * 




 冒険者ギルドは優秀で有能で、とても便利で──不便だ。

 それはリーダーが、いつも酔うとこっそり愚痴る言葉だ。


 加入はどんな種族、どんなジョブ、どんなスキル持ちでも基本は無料。余程の前科や手配持ちでない限りは、身一つでできる。

 冒険者タグと呼ばれる身分証は即時発行、携帯できるので、貴族や職能ギルドに所属していない一般人は大抵、十五になると「冒険者」を兼任している。


 もっとも、定住者はほぼほぼ「取るだけで使わない」。


 耕す畑があれば納税はその収穫量に応じて、害獣や付近で採取した薬草は自家消費で終わるから。

 たまにむっちゃ獲れた時、どうやっても消費できない時だけ、村の冒険者ギルドに売っ払って──解体加工料や税金分を引かれた小銭に変える。そんな感じだ。

 年に一定額を越えると、別の職能ギルドから強制スカウトが来て「転職」させられる、そうだが、僕がいた村では二十年に一人か二人。その程度。

 要は国の監視下にある、人口管理の出先機関の一つ。


 ただし、学問所や各職能ギルドで「こいつヤベエ」扱いされると、再度冒険者ギルドに戻される。

 そこで特殊な勉強や戦闘訓練漬け、試験、試験、面接、資格試験、勉強、訓練、試験の嵐。

 商用共通語試験と騎士階級礼節試験、個人納税計算、周辺諸外国常識審査は、地獄のようだった。それらに比べれば──いや、魔法資格もかなりハードだったなあ。

 最終試験は人格人倫問答で、ここでコケると「パーティ面接」には進めない。

 そしてパーティに所属できなければ、『冒険者』としては認められない。ただの「冒険者タグ持ちの一般人」でしかない。


 名称変えればいいのに、と思うが、なんかそうはいかないのが面倒くさい。


 つまるところ、『冒険者』は所属先がないと、他に仕事をして納税していないと、ただの浮浪者になるのだ。

 そして浮浪者は、たとえどんな資格試験に受かった過去があっても──食い積めて略奪窃盗に走ってしまえば、各国からは野盗と同じ扱いである。

 ひでえ。

 けどそんなもんだ、法律上。


 うまいこと各国国境外にいなけりゃ、うまいこと立ち回らなければ、うまい出会いに恵まれなければ、狩人ギルド民や冒険者タグ持ちの厳つい農民、国境衛兵にヒャッハーと狩られてしまう数奇な宿命。

 まあね、武器やポーションや魔法道具って、良い値で売れそうだもんね。

 そんで更に、彼ら彼女ら皆様に反撃すれば、あらびっくり、完璧にこっちが犯罪者である。

 まあそうですね、浮浪者が一般国民に傷を負わせりゃそうですね。


 嗚呼、そんなリスクがあるのに。

 『冒険者パーティ』は有名になるほど、国を越えた任務も受注しなければならない時がある。

 そう、今回のように。

 人種差別やら種族差別やらジョブ差別、スキル差別といった偏見は国ごとにある。ない国もあるけど、何処の国でもなにかしらは、ある。




 * * * 




 僕たちがいた国は、割とおおらかだった。

 それでも宗教的禁忌として、異種族混血児は迫害されていた。ハーフエルフが生まれたら一族郎党断絶処刑、故に禁断の愛を育みたければ国外脱出。その警護依頼なんてぇ任務もこっそり受けたっけ。

 ただし種族による弾圧自体はない。

 線引きさえしていれば、問題はないそうだ。


 だからアルのような、リザードヒュームと呼ばれる「一目で分かる」異種族がメンバーに加わるパーティは、他にもある。

 複数国が依頼主である任務を受け、入国の際に揉める例も。


 うちのダンジョンが成長しすぎたんで、おたくのあのパーティが間引いてくれませんか。

 いやあうちのあのパーティにはおたくの国の「禁忌」がいるので。

 じゃあ入国時にその「禁忌」だけ追放してくれれば。


 そんな具合に調整された依頼書に、リーダーは密かにぶちギレつつ、根回しをするわけだ。該当メンバーに、出国前に「 茶番をするから頼むわ」と。


 そもそも「相手国の禁忌に該当するメンバー」は出国させなければいいのに、と僕は思うんだが。

 所属登録しているパーティメンバーは、冠婚葬祭以外の一時離脱を認められない、という『冒険者』の共通法律があるのだ。

 そう、とても不便なことに。

 まあパーティ制度ってのも、超絶戦闘力を有した『冒険者』の相互監視義務で生じてるんだけどさ。あと連帯責任ってやつも。

 いざという時は一蓮托生。そうでもなきゃ武器の携帯もさせられない、ってか。




 * * * 




「アルは……リザードヒュームだけのパーティに転属した方が、こういった面倒ごとは回避できるって思わなかった?」


「思った。けどあっちはあっちで……オレ、斑鱗なんでちょっと……」


 リザードヒュームは鱗の色で上下関係があると聞くから、色々あったんだろう。

 嫌なこと思い出させてごめん、と謝ると、アルはぱかっと笑った。


「トーアたちはそういうこと気にしないから好きだ、このパーティで良かったと思ってる!」


 いいやつだ。

 好き。


「僕もねえ、第一志望パーティが『肌の色はともかく、僕っ娘はちょっと北東国で……そっちの任務があるから……』だったし」


 だから僕は、拾ってくれたリーダーに感謝してるし、追放だって、その後の再面接と再加入だって慣れたもんなんだ。

 いつもみたいに、国境外で巡回兵や狩人たちに見付からないように、自給自足で任務終了を待って。帰途に「たまたま同行」すれば良いし。

 およそ一月後、ぶっちゃけ待ち合わせ場所はこの木立。

 そう言って仲間たちは、僕の荷袋に今朝、塩や食糧をパンパンに詰め込んでくれた。アルの荷袋には水樽と魔石もぎゅうぎゅうに。


「トーアはそのままでいいと思う」


「ありがと……さあて、拠点と水場と狩り場を探そうか」


 隊商路から離れた方がいい。

 資格持ちの「浮浪者」をスカウトに来る連中や、狙いに来るガチの盗賊もいるからね。

「大丈夫だ、トーアの斥候能力とオレの戦闘力なら、余裕」


「そうだね」




 笑いながら、二人で何処の国でもない荒野を進む。

 一月後までに、誰にも逢わなければいいなあ。




 リザードヒュームとヒトの婚姻が合法な遠い国のスカウトが来たら、僕は勧誘に抗えない気がする。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。