表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/12

第十二章 十年の果て

 空はゆっくりと明るさを増し、朝日の光が町を照らし始めていた。街路樹の影はそよ風に揺れ、鳥たちのさえずりがいつもの通学路に戻る。町は何事もなかったかのように日常を取り戻していた。子どもたちは笑い声をあげながら駆け回り、商店街の人々も普段通りに笑顔を交わす。だが、その光景の中で悠真の胸に残った影だけは、決して消えることはなかった。


 あの夜、祭壇の前で交わした決断の重さ——自分の一部を残し、町を守る結界として身を捧げた事実——それは救済の象徴であり、同時に消えぬ宿命の刻印でもあった。悠真は足を止め、ゆっくりと手を合わせ、祈るように神社の方角を見つめた。目の前の町は平穏に包まれているが、心の奥底では、あの囁きがまだ微かに響き続けている。


 「また……十年後か」


 その声は遠く、風にかき消されるように消えた。しかし悠真は知っていた。次に訪れる十年も、必ず自らの覚悟が試される時が来るのだと。目に見える平穏があっても、それが本当に終わったのか、あるいは単に時間を稼いだに過ぎないのか——答えは誰にもわからない。


 悠真は深く息を吸い込み、ゆっくりと歩き出した。町の朝の匂い、軒先の花の香り、遠くで笑う子どもたちの声——すべてが平和に思えた。けれど、胸の奥の影は、確かにそこにある。目を閉じれば、あの夜の祭壇、交わした囁き、そして選択の重みが鮮明に蘇る。悠真は自分の足音を聞きながら、心の中で決めた。どんな答えが待っていようとも、町を守るために歩き続ける。


 通りを抜け、学校の前を通り過ぎる。普段通りの朝の光景に目をやるが、悠真の意識は遠くの神社の方へ、そして祭壇の残響へと引かれていた。影は消えず、囁きは微かに耳に届く。恐怖や不安ではない、重く静かな覚悟。それが自分の存在の一部になってしまったことを、悠真は受け入れるしかなかった。


 「次の十年まで……俺が、ここにいる限り」


 そう心に誓いながら、悠真は歩き続ける。誰も知らない結界を背負い、町の平穏を守るために、ただ進むしかないのだ。救われたのか、あるいは単に時間を稼いだだけなのか——その答えは、夜の闇の奥、風の中、そして祭壇に残された影の中だけに存在する。


 町の静寂は、表面的には平和そのものだ。しかし、悠真の歩みの先には、いつ再び目覚めるかわからない影の気配が、かすかに漂い続けていた。見えない未来、そして十年後——その時、すべての答えが再び問いかけてくるだろう。


 悠真は歩く。救われたのか否かを知ることなく、夜を抜けて、光の中を、影の中を——ただ歩き続けるしかなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ