18 迷惑かけた君へ
仕事が終わり夕日が沈みかけの薄明かりの中、バスに揺られて帰宅している
秋も深まっているというのに今日は暑い
家に帰れば彼のいるエアコンの効いた快適な部屋が待っている
家に着き、玄関のドアを開ける
「ただいまー 帰ったよー」
明るく声をかけながらドアを開けたが返事はなく部屋に電気もついていない
家に帰ればいつも出迎えてくれる彼がいない
「あれ、どこか出かけてるのかな?」
不思議に思いつつ見渡すとテーブルの上に封筒が1つ
彼の文字の手紙がただそこにあった
俳優を目指し上京して3回目の秋が来てしまいました
芝居の勉強をしながらバイトで繋ぐ生活でいつも君に助けられてばかりです
でも、もうこの関係も終わりにしたいと思う
小さいながらも名前のある役貰ったんだ
連続ドラマの役なんだよ
君に助けてもらわなくても大丈夫
今までありがとう
新しいスタートの前に君の誕生日をお祝いさせてもらいたい
お誕生日おめでとう
去年まではろくにお祝いも出来なくてごめん
今年はいろいろ用意したよ
まずは冷蔵庫にケーキ入ってるから手紙読んだら開けてみて
君の好きなの選んでみたよ
本当に今までありがとう
誰もいない部屋の中、頭上のライトだけが私を照らしている
手紙の意味も分からぬまま、手紙に書いてあったケーキの為に冷蔵庫を開ける
庫内のランプがやけに眩しく感じた
パーーーン!!!
「誕生日おめでとう!!!」
冷蔵庫の明かりをきっかけにクラッカーの音が部屋に響く
部屋の電気が全部つき、物陰から彼が出てくる
「お誕生日おめでとう。今年も素敵な1年になるといいね。」
あまりの衝撃に頭が真っ白になる
そして、急激に繋がった脳内が1つの結論を導き出す
「紛らわしい文章にすんなーー!」
言葉とともに綺麗な正拳が彼のみぞおちを打ち抜いた
「キミいないし別れ話かもとか考えちゃったじゃん。変な書き方しないで……」
どんな顔してるかも考えられないまま彼に抱きつき、涙と鼻水をTシャツで拭いてやる
「ごめん、ごめん。ちょっとしたサプライズのつもりだったよ。」
「……分かった。ドラマの役の詳細教えてくれたら許す」
数ヶ月後、肩を寄せ合ってテレビドラマを観ている2人がいた




