15 詩が好きなあなたへ
散歩に出かけた公園でフリーマーケットが催されていた
何か良いものは無いかと見回していると本を売ってるブースを見つけた
その中の一冊の詩集に惹かれ手に取った
「この本は君のものかい?」
私は店番をしている若い女の子に聞いてみた
「ううん。たぶんお父さんのじゃないかな? もうお父さんいないし、うち読む人もいないからフリマに持ってきてみた。買ってかない?」
100円玉と交換に持って帰ってきた詩集をパラパラとめくってみる
本の真ん中あたりに何か挟まっているのに気がついた
それは1枚の便箋だった
少し色褪せたその便箋をゆっくり開いてみる
この地を離れてしまうあなたに、今更ながら私の気持ちを伝えたくて
あなたの好きな詩に手伝ってもらい告白します
この詩が好きだと言いながら優しい笑顔で本を読むあなたの横顔が好きでした
あなたと過ごす時間がずっと続くと思ってました
同じ灯りの下でこの詩について語り合う事が癒しでした
共に過ごした思い出を大切な宝物にしていきたいと思います
今まで素敵な時間をありがとう
うるさいうるさいうるさい!
そんなに言うなら迎えに来るぐらいしてみなさいよ
私の事が大事なら今すぐ迎えに来て
待ってるから!
途中から色の違うインクで返事が書きなぐられている手紙だった
これは持ち主に返したほうが良いのではないかと思い先程のフリーマーケットに戻ってきた
「なんであの本売っちゃうの!? どんな人に売ったの?」
さっきの若い女の子に詰め寄っている女性が見えた
「だってお父さんの本なんてお母さん読まないじゃん」
「あの本だけは特別なの! 早く売った人探して取り戻してきて!」
一方的に捲し立てている女性に恐る恐る話しかける
「あの……その本ってこちらでしょうか? お返ししようと思って持ってきたのですが……」
「えっ、さっきのお兄さんじゃん」
「あっ! 本持って来てくれたの? もしかして中みた?」
何も言うなという圧をかけてくる女性だったが、本を受け取った表情はとても優しく微笑んでいた




