RE:08 忠実なる下僕へ
女王の部屋を出て自室に戻った私は深く息を吐いた
手渡された手紙
あの女王様からの「褒美」と称された一枚の紙
封を開けその内容を読み終えた瞬間、私の全身を抗いがたい熱が駆け巡った
「来たる満月の夜、我が前へ参上せよ。ただしその手には汝が最も尊ぶものを携えてくること。」
私の最も尊ぶもの
それは疑いもなくこの身を捧げた女王様、あなた様そのものだ
だが物理的にあなた様を携えることなど叶わぬ
どうすれば…
私は机に向かいペンを執った
私に許された唯一の表現方法
それはあなた様への絶対的な忠誠と、この愚かな獣が抱く不遜なまでの愛を形にすることだった
この身を震わせながら謹んで筆を執っております
あなた様からの御手紙、確かにこの身に受け取りました
愚かな私にこのような御慈悲を賜りますこと光栄の至りにございます
胸の奥底から感謝の念がとめどなく溢れております
あなた様が仰せの通り、私の存在はただあなた様の御命令を遂行するためだけにあります
あなたの言葉、眼差し、そして鞭の全てが私にとっての絶対であり、私の生ける理由に他なりません
迷うことも疑うことも私の魂には許されません
それこそが私に与えられた唯一の道であり、この上ない喜びでございます
「愚かな犬」である私に新たな試練を賜りますこと心より感謝申し上げます
それはあなた様がこの獣の存在を認め私に再び御慈悲の光を当ててくださる証
この身の全てを捧げても決して後悔はございません
私にとって最も尊ぶもの
それはあなた様が唯一無二の絶対的な存在であるという事実です
そしてあなた様にこの身全てを捧げられることこそ私にとっての至福でございます
この獣があなた様へ捧げうる、唯一の献上品は我が身でございます
我が命の限りあなた様にお仕えしひれ伏し、その光を浴び続けさせてください
この愚かな手紙が、あなた様の退屈を少しでも紛らわせるならば、それ以上の喜びはございません
畏敬と尽きせぬ愛を込めて
跪く犬より
手紙を書き終えた私はそれを丁寧に折りたたみ、封筒に入れた
満月の夜
言われた通り私は女王の前にひれ伏した
手にはあの手紙を握りしめて
無言で差し出されたそれを、女王は冷徹な眼差しで受け取った
その場で彼女はゆっくりと手紙の封を切り、内容に目を通し始めた
私には女王の表情を伺い知る術はない
ただ、床に額を擦りつけ彼女の息遣いだけを感じていた
やがて手紙を読み終えた女王が小さくしかし確かに「ふむ」と呟いたのが聞こえた
そして、私の頭上から、静かな声が降ってきた
「愚かな犬よ。…面を上げよ。」
私はゆっくりと顔を上げた
その眼差しはいつもと変わらぬ支配的なものだった
しかし、その唇の端には微かな「笑み」が浮かんでいるように見えた
私の気持ちが彼女に届いた
その事実が私の心を言葉にできない歓喜で満たした




