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眼鏡る僕と君  作者: chat noir
眼鏡る僕とネコ
6/9

第六話◇

「ぺっ」

「うわ、吐いた」 

「ありゃりゃ、美味しくなかったのかな」


   差し入れとしてのポカリや栄養ゼリーとは別に、後で食べようと思って買ったポッキーがあったのでそのクッキー部分をあげてみたのだが、あまりおいしくはなかったようだ。ネコはぺろぺろと毛繕いをしていた。


「――で、空気を入れ替える為に窓を開けてたらこのネコが入ってきた、と」

「ネコの身体能力ってすごいよね、ここ二階だよ?」

「それもこんな子猫がね」


 ネコってすごい生き物なんだなーと二人してひとしきり感心した後。


「芽衣子はこの子どうする気なの? お姉さんには隠したがってたみたいだけど」

「うーん…正直そこまで深く考えてなくて、ただお姉ちゃんに見つかるまで一緒にいたいなあと思ってた。 あの人昔から猫超嫌いだから見つかったらどうせ逃がさなくちゃいけなくなるし」

「でも首輪ついてるしこの子飼い猫だよ、多分」

「えっ、嘘、…ほんとだ。 気が付かなかった」


 ただでさえいつもぼんやりしている芽衣子の事だ。熱で更にぼんやり度が加速していたから気が付かなかったのだろう。猫の首には不思議な文様をした首輪が付けられてあった。


「何も書かれてないみたいだね。 飼い主の電話番号とかが分かったら良かったんだけど」

「うーん? あれれ、おかしいな。 尻尾が二つ見える」

「…この子のことは私に任せて芽衣子はポカリ飲んでもう寝な」

「それは恵に悪いよ 」

「そんなこと言って、ただネコと戯れたいだけでしょ。 別に今日中に飼い主が見つからなかったら私の家で匿うから、心配しないでいいよ」


  図星だったのか、それとも体力の限界がきたのか。芽衣子は気の抜けた返事をしたかと思うとすんと黙りこんでしまった。


 (さて、この猫さんはどうしましょうかね)


 頭にすぐに浮かんだのは

 〇動物愛護センター

 〇動物保護団体

 〇警察署

 の三か所のどこかに助けてもらうことだが、私の脳はすぐに一つの選択肢に的を立てた。


 ーーーーー

「ありがとうございました」


 ガラガラガラと音を立てて片手で引き戸を閉めた。背負っているリュックサックから「ニャー」という声が聞こえてくる。


「まだお前の、遺失物届? 出されてないってさ」


 この子には少し気の毒だが実際のところウキウキしていた。

 行ったのは警察署だった。心の内をさらすと、飼い主が見つかるまでの間この子と一緒に居たかったがために施設に預けるのは良しとしたかったのだ。


(ごめんよ芽衣子、人の事言えなかったわ。 私もぎりぎりまでこの子と戯れたい)


 帰宅後、子猫をしばらくの間保護すると親に言うと二つ返事でokを貰った。 もともと家には元野良猫が二匹住んでいて、両親がどちらもネコ馬鹿なので断らないとは分かっていたけれど、どうも子猫のキューティクルな目にやられたらしい。ただし私がちゃんと世話をすることが条件として提示されたが勿論承諾した。願ったりだ。


 名前が分からなかったので仮の名前として安直に黒色だからくーちゃんと呼ぶようにした。こんな可愛い子なんだからすぐに飼い主から警察署を通して連絡がくるだろうが、それまではいつもより楽しく過ごせそうだ。

 23:00。そろそろ寝ようかと思いベッドに入ってリモコンを手に取り、床に律儀に座っているくーちゃんに最後に声をかける。


「おやすみ、くーちゃん」「ニャー」


 ピッ という音を始まりとして部屋は次第に暗くなり、くーちゃんの眼だけが闇の中で光った。





 部屋は静まり返っている。女が寝息をすーすーと立てているのを確認してからのそのそと窓の方に近づき、無造作に鍵を開け音も立てずに窓を横に滑らし外に出る。




 街灯に照らされるそれは、自身が持つ黒をより際立たせた。

 通りかかった野良猫は一人で歩く仲間に声をかけようとしたが、すぐに違和感に気づき毛を逆立たせて逃げ帰る。それはまさに異質。感の良い野生生物にはそれが分かったのだ。


ーーーーー

「フー、フー」

 ナイフを光らせた狂人が鼻息を荒くさせながら辺りを見渡している。

 どこの家でもよかった。この欲を満たしてくれれば。


 防犯設備が十分に整ってなさそうなこじんまりとした家が視界に入り、にじり寄る。

 心臓をバクバクさせながらゆっくりとドアノブを回転させ、ついにドアは開いた。鍵は閉まっていなかった。ドアの隙間に体を滑り込ませるようにして中に入る。


 女物のローファーが玄関に一足あったので拾い上げて鼻に押し当てて匂いを嗅ぐ。

 ああ、たまんない。この家には女子学生がいるのか、楽しみだ。


 床をあまり軋ませないようにして気味の悪い笑顔を浮かべながら侵入していく悪人の後ろ姿を、金色の二つの瞳がじっと見つめていた。




「そういえば芽衣子スマホちゃんと見てる? ライン送ったんだけど既読つかなくて」

「あーそれはごめん、実はスマホ失くしちゃって見れてなかったの」

「ちゃんと探したの?」

「勿論。 絶対に家の中にあるはずなんだけど…まあそのうち出てくるでしょ」


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