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眼鏡る僕と君  作者: chat noir
騒がしくなる前のこと
2/9

第二話

1~3話は4話以降と描写の仕方が全然違うので面白くなかったらもう飛ばしちゃって4話から見てください。

 

 目の前にいる女子の口が開く。

「田村君、昨日歩道橋渡ってたよね」


 心臓がどくんと跳ねる。どう返せばいいか悩む間もなく、次の第2声が飛んできた。


「めっちゃ目合ったよね」

「っああ、確かにめっちゃ、ばっちり、目合ってたね」


 内心の動揺を隠しながらそう返すと、その女子はひとしきり笑った後にくるっと元の方向に向かいなおした。どうやら日誌を書いているらしい。僕は後ろから声を掛ける。


「…日誌どうにか埋まりそう?」

「うーん、正直埋まりそうにないんだよね。田村君なんかいい案ない?」

「今日の英表の授業で先生が口ずさんでた替え歌書けば?」

「それ、ナイスアイディア」


 そう言ってぼくのほうを向いてサムズアップをした後、凄い勢いでペンを滑らしていた。



 …どうやら僕は昨日の件で虐められることはないらしいということと、顔を見なければある程度は話せるらしいということが今の会話で分かり、心のしこりがすこし取れたような気がした。


「…ふぅ」


 眼鏡越しにホワイトボードの隅っこ、つまりMCの欄を見ると前田 芽衣子(めいこ) と書かれていた。前田さんは僕の名前を覚えてくれていたらしい、ならこちらも覚えないと失礼だろう。


 いやしかし普通に考えれば目が合ったくらいで悪評が広まるほど僕はクラスメイトに嫌われていないはずだ。まずそう評価を下せるほど僕たちは関係性が深まっていない。なるほど、そうか。どうやら僕は自覚していた以上に自分のことを嫌っていたらしい。僕がもしクラスメイトの立場だったならば、目が合っただけですぐに近くにいる友達に告げ口するだろうぐらいには。



 ドアの取っ手に手を掛けると「ちょっと待って」と声を後ろから掛けられた。


「日誌書き終わったら終礼の時に回収したノート達を職員室に運ばないといけないから手伝って」

「、、、わかった」

「滅茶苦茶『やりたくねー』て感じの返事じゃん」

「え、あぁ、ごめん」


 じゃんと言いながら、急に顔を合わせてきたために最後の返事のボリュームの落ち方が凄かったが、それが面白かったらしく再び笑いながら「そんなに怒ってないよ」と言った後前田さんは作業を再開した。


 …少しの間手持無沙汰だったが、前田さんは急ピッチで終わらせてくれたらしく、待つのはほんの40秒ほどだった。日誌の終盤が悲惨なことになってるだろうことは軽く予想がついたが、僕はそこには触れないでおいた。



「で、これなんだけどさ」


 そう言いながら前田さんは積まれた色とりどりのノートに指をさす。クラス全員分で、かつ二教科分だと考えると60冊くらいだろうか。二つに分けて積まれたノートのうち右のほうが明らかに少なかったが前田さんは大きいバッグを背中に背負った後、さも当然のように少ないほうを手に取って「そっちよろしくね」と言ってきた。


 僕は全身全霊をもって抗議をしたかったが、日誌が既に書き終えられている今に会話するとなると、確実に目線を合わせることになることは分かっていたので口を閉ざすしかなかった。



 二人で並びながら階段を降りていく。体育館から奇声が聞こえるのは剣道部だろうか。


「私が田村君が持っているのより軽いほう持ってるの気がついた?」

「うん」

「き、気付いてたんだ。そっか」

「…」

「…お、怒ってる?」

「? 怒ってはないよ?」

「…ねえ」

「…うん?」

「…いやさ」

「うん」

「さっきからどこを見ているの⁈ 怖いよ⁈」

「…」

「ご、ごめんって、謝るから…」

「いや、全然気にしてないよ」

「じゃあこっち向いてよ」

 ごめん、それはちょっと()()


 職員室に辿りつくころには、確認したわけではないが前田さんは涙目になっていたと思う。

 少々申し訳ないと思いながらも無事に二人で提出棚にノートを置いて任務完了。


 ありがとう、と感謝を述べた前田さんはこの後部活なんだよねーと言い残し、僕に手を振りながら「じゃあねー」と大きな声で言いながら通路の奥に消えていった。


 久しぶりのコミュニケーションに、密かに興奮しながらも、入学早々に幽霊部員になっていた僕はいつも通りの帰路に着いた。


「ただいま」「おかえり~」


 2018/5/16

 あの日からちょくちょく前田さんが声をかけてくるようになってきた。


 とはいっても「おはよー」や「じゃあねー」といった挨拶だけをする日がほとんどだったので、世間的に言う普通のクラスメイトの関係とそうは変わらないのだが、()()()()()()これからの高校時代を過ごしていくにあたりぼっち覚悟だった僕にとってこれは非常にありがたいことだった。


 そして驚くことに、いつの間にか僕はしっかりと顔を見ながら前田さんと話せていた!

 これは非常に驚くべきことだった。というのは僕は眼鏡をつけていると自分の親とさえ話せないからだ。


「そういえば、最近こっち向いてくれるようになったね…って、何そのまるで宇宙人を見たような顔は」

「うわあ、確かに、今気づいた。 …ほんとに人間?」

「え、なにその急な暴言」


 実際、前田さんと話していると必然的に前田さんの友達とも話すことになるのだが、その時になるとやはり僕は顔を逸らしてしまう。


「私、綾乃~。よろしく~」

「…よろしく」

「」


 僕の素っ気ない態度に対し呆気にとられている姿には申し訳ないと思いつつも、それでも顔を合わせると毎回話しかけてくれようとする姿勢は本当に嬉しかった。




 前田さんは、親友でもないただのクラスメイトなのに、僕にとって唯一の遠慮がいらない人であり、不思議な存在だ。綾乃さんは、こんな素っ気ない僕に頑張って話しかけようとしてくれるいい人だ。


 これから僕はこの縁を大切にしながら高校生活を送っていくことになるが、いつしかその心構えにより生活は完全に世の理を逸脱したものになっていき、後になってちょっぴり、いやかなり生き方を間違えたかなと後悔することになる。まあ、時間はたっぷりある。残された日記に書かれてある事の顛から末まで、ゆっくりと話していくとしよう。


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