第一話
1~3話は4話以降と描写の仕方が全然違うので面白くなかったらもう飛ばしちゃって4話から見てください。
高校から眼鏡をかけるようになった。
眼鏡デビューには若干の、いやかなりの抵抗があったけれど。
結局、僕は目が悪くなるよと必死に説得してくる親に根負けして眼鏡を装着することになった。
あまり気が進まないという感情を分かりやすく表に出しながら、それでも眼鏡屋さんに行って初めて眼鏡をつけた時、視界の鮮明さ、世界の美しさに自然と自分の顔が笑顔になったことを覚えている。
そしてその日から僕は人の顔が見られなくなった。
母親から聞いた話だが、つまり自分の記憶には無い程の昔の話だが、小さい頃僕はとても明るく社交的で”いい子”だったらしい。賢さ、運動神経の良さ、そして社交性。どれをとってもトップレベルであったという(”親”が言う事なので真相は分からないが)。
賢さ、運動神経の良さに関してはともかくとして社交性の高さはある程度確かだとは思う。
靄がかかった僕の記憶領域は気持ちの悪いことに女の子関係の記憶はちゃんと保管しているらしく。
自慢だが水着のジュニアアイドルにハグされたりした経験がある。勿論友達にも困らなかった。
そんな僕は中学卒業まで笑顔を絶やさずに過ごしてきたが、ここで冒頭に戻る。
そう、僕は人の顔が見られなくなった。重ねて言うと、コミュニケーションが嫌いになり、インドア派になり、自分を嫌い、誰も愛せなくなった。
-------
2018/5/1
身を縮め、息をひそめ、机に突っ伏しながら僕は、田村 泉は、入学早々学校から支給されたipadの電源ボタンを押し、サイト「小説家になろう」を開いた。
ちらりと周りを見渡すと、クラスメイトの数人が僕と同じサイトを開きながら休み時間を過ごそうとしているのが分かる。3倍ほどに良くなった僕の視力は必要としていないのにも関わらず、その子たちがこれから何を読もうとしているのかをも把握し、そしてそれは僕に会話のチャンスをくれる。
(僕もそれ読んだことある! 面白いよね! それアニメ化するらしいよ、知ってた? あ、ごめん。言い忘れてた)
(僕田村って言うんだ! よろしく! 君の名前は?)
…視線を自分のipadに移す。昔の自分だったなら、眼鏡をつける前の自分だったならそれは簡単にできたはずだ。でも今の自分には無理だ、なにせ。
「何読んでるの?」
「え、ああ、これ? 主人公が、モンスターに転生して、えっと、頑張っていくっていう話」
「…へえ、そうなんだ」
後ろから突如として声を掛けてきた女子はすぐに興味を失ったように元居たグループに戻り去っていく。
…眼鏡をつけたその日から僕は人の顔を見て話すことが出来なくなってしまった。そして会話をするのがつらく、コミュニケーションが嫌いになった。
つまり僕は、数か月前までと打って変わってコミュ障になってしまった。
振り返れば、僕は昔から「期待される」ということが嫌だった。
どれほど嫌だったのかと言うと小学生のころに「自分の夢は普通の人になることだ!」と親に面と向かって言ってしまうぐらいには嫌だった。
眼鏡を付けた今。
会話をするとき人の表情が気味の悪い程に見えるようになってしまった今。
期待した返事が返ってくることを期待する相手の表情が怖くなってしまっていた。
つまるところ、僕は人と会話を重ねるごとに、君には失望したと言いたげな眼を勝手に感じ取り、勝手に自己評価を下げ、勝手にコミュ障になったのである。
帰宅を促すチャイムが鳴った。
僕の会話チャレンジ失敗以外にこれといったことも特になく、無事に学校を終え、校門を通り、帰路に着く。
僕は皆が通ることの少ない歩道橋を渡りながら、(つまり遠回りしながら、)同じ学校の生徒達を上からそっと見下ろす。
男女の入り乱れた笑い合う声がしっかりとここまで聞こえてくる。理由もなしに視線を下にしてゆらゆらさせていると無意識に一人の女子が目に留まり、しばらくの間、と言っても1,2秒だとは思うが、見ていた。その後に僕はあることに気づき目を放そうとしたが遅かった。
その子と偶然にして目が合う。
あっと驚き、僕はすぐさま視線を落としたが、居心地が悪くなり早くなる鼓動と共に先の道で鉢合わせないよう早歩きを始めることになった。傍から見れば、僕は急いでいるのにわざわざ回り道している馬鹿な奴だろう。
その子は今日話したクラスメイトの女子だった。
満員電車に揺られた後に、バスに乗ってすぐ一番後ろの席に座り、ポケットからイヤホンが刺さったままのスマホを取り出し、なんとはなしにYoutubeの検索ページに”サッカー”と打ち込む。
4歳の頃からサッカーをしていたら、自然と空いた時間にサッカー関連の動画を見る事が日課になっていて、学校で配布されたipadではYoutubeが見れずweb小説を読んでいるが、バスの中だと専らこれだった。
音量を一ずつ上げていくと、応援する声が僕の耳の中で大きくなっていく。
顔を少し動かして見える範囲でバス車内を見渡し、クラスメイトがいないことを確認した後に。
僕は眼鏡を外し、画面を眺めた。
結局鼓動がいつものペースに収まるにはそのまま終点まで行った後にUターンしてから家の前のバス停で降りるくらいの時間が必要であり、その後家に帰宅した。
「おかえり」「ただいま」
-----
ご飯を食べた後、しばらく*子供部屋にある机に突っ伏しながら今日の出来事と明日を考えていた。
あの女子と見つめあった時の心臓の鼓動は決して恋愛感情のドキドキではなく、
それとは真逆と言っていいほどの感情、つまりは恐怖であるということは言うまでもない。
あの女子は僕のことをどう思ったのだろうか、やはり気持ち悪いと思ったのだろうか。だとすれば、まずいかもしれない。言いふらされたら、つまりはクラスメイトに僕の悪評が広まったら、明日どのような顔で行けばよいのだろうか。…虐められたりするのだろうか。
こんな事を心配するようになった自分ってなんて惨めなのだろう。
-----
2018/5/2
拍子抜けなくらい、呆気なく。
昨日の自分が馬鹿みたいに思えるほどにいつもと変わらない日であったと言えた。
まあ僕にはこの学校に友達はいないし、陰口が叩かれているのだとしても僕が気づけていないだけかもしれないが。
しかし、クラスメイトからの嫌悪感はやはり全くもって見受けられなかった。
もしかしたら目線があったとこっちが勘違いしただけで実際のところあちら側は全く僕のことを認識していなかったのかもしれなかった。
*LCからの連絡後、先生による締めと共に終礼が終わり、教室内ににぎやかな声が広がる。
皆は中々帰りたくないようだが、僕はそそくさと後ろのドアから退散した。
体操着を忘れた。そのことに気づいたのは電車に乗って駅を3つほど過ぎた時だった。
戻るか一瞬迷ったが、すぐに学校に戻った。
流石に二回連続も洗わないのはやばいだろうと思ったためだ。
学校に到着すると金管楽器の綺麗な音が耳に入ってきた。
校門に入って目の前にある時計をみるとどうやら今は4時10分らしい。
教室は明るかったが中を覗くと、女子が一名いるだけだった。
後ろのドアからこっそり入り、鍵を開けてロッカーから体操着を出そうとしていると何やら後ろから視線が感じられたので振り返り、そして後悔し、物語は始まった。
件の女子がこちらを見ていた。
*子供部屋 諸事情により弟が千葉県にいたために2018年からしばらくの間一人部屋だった
*LC 日直のこと
よろしければブックマーク登録、評価等されていってください。
励みになります。