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3.エドワード・クーロン

次のターゲットは決まった。

エドワード・クーロン。

今はアルフォンス・クーロン将軍の息子で、陸軍大将。

ゲーム開始時は、自身がクーロン将軍となっていた。

黒髪黒眼、エキゾチックな美貌と長身の、前世の私の一番のお気に入りキャラだった。

因みに、私はエドと呼んでいた。

病むきっかけは、婚約者に片目を潰される事。

バッドエンドは、ヒロインを拉致監禁。

家族は北国に左遷される。

比較的マシなバッドエンドだが、やはり一生監禁というのは、憂鬱だ。


婚約者に襲われるのは、15歳の誕生日に他の女の子からプレゼントを受け取ったから。

婚約者はエドの浮気を疑い、暴挙に出るのだ。

つまり、エドにプレゼントを受け取らせなければ、襲われない。

エドの誕生日は一週間後。

誕生パーティーが開かれるから、そこに潜り込んで、女の子からプレゼントを奪い取る。

プランを建てた所で、部屋の扉がノックされた。


顔を覗かせたのは、この世界での私達の父親、リヴァー・スミス伯爵。

陸軍大佐で、アルフォンス・クーロン将軍の副官だ。

私や兄と同じ、ヘイゼル色の髪と瞳。

見た目は細身の文官風だが、戦場では笑顔でエグい作戦を遂行する、優秀な参謀だと、父の部下が言っていた。

だが、どれほど冷酷な軍人でも、私には甘く優しい父親だ。

私を産んですぐ母親が亡くなり、片親になった事を不憫に思っているのだろう。

大抵の我儘は聞いてくれる。

生まれ変わって知った事だが、父親という生き物は、娘が我儘を言うと、喜ぶ。

もちろん、度が過ぎる我儘は駄目だが。

前世の新しい父も、私が遠慮したりすると、寂しそうな顔をしていた。

もっと甘えてあげれば良かった。

反省も踏まえて、今の父親には、もっと甘えてあげようと思う。


「アキ、怪我はなかったかい?」

私は優しく微笑む父に抱きつき、大丈夫、と言った。

「ハルフォード、妹を危険な目に遭わせるとは、何事か」

私に優しい父は、兄には厳しい。

兄は申し訳ありません、と頭を下げた。

スミス伯爵家の嫡男として、兄の肩には大きな責任がのしかかっているのだ。

「ケイマン子爵には、よく息子を助けてくれた、と感謝されたが、そなたにはこのスミス家の跡取りとしての自覚が足りぬ。

罰として、これより一月、外出を禁ずる」

げ。

困る、それは困る!


私は思い切り可愛い笑顔を作って、父に話しかけた。

「お父様、クーロン将軍の御子息のエドワード様がもうすぐ、お誕生日なのでしょう?

お父様もパーティーに参加なさるの?」

父はちょっと困ったように笑った。

「参加するといっても、護衛の為だよ。

近い将来、将軍になられる方だからね」

将軍職は世襲制ではないが、エドが将軍になる事は、ほぼ確実と言われている。

12歳の初陣以来、連戦連勝の若き軍神は、国民の人気も高い。

「以前、エドワード様を凱旋パレードでお見かけしてから、ずっと憧れていましたの。

わたくし、是非直接お祝いを申し上げたいのですが、パーティーに参加させて頂く訳には参りません?」


憧れている、のくだりで父のコメカミが引き攣るのを見たが、何とか言い切った。

「アキ、お父様は仕事に行くのだよ?」

うん、笑顔も引き攣ってるね。

嫉妬かい、可愛いな、お父様。

仕方ない、伝家の宝刀を出すか。

私は目に涙を溜め、上目遣いで父を見つめた。

「ごめんなさい、お父様。

困らせるつもりはなかったの。

ただちょっと、エドワード様を近くで拝見したいな、と思っただけ。

もう我儘は言いません」

私のうるうる目攻撃に、父はとことん弱い。

結局、パーティーへの参加を許された。

勿論、兄も護衛として付いて行く事を命ぜられた。

ちょろいぜ、お父様。


パーティー当日、会場はエド目当ての貴族令嬢とその保護者達で溢れかえっていた。

誕生パーティーなので、ほとんどの招待客はエドへのプレゼントを持参しているが、婚約者がいるエドに、直接プレゼントを渡す事は、普通の令嬢はしない。

プレゼントは入口の使用人に預けて、後日、御礼状が届くのを待つのが、マナーだ。

つまり、直接エドにプレゼントを渡す、という行為はエドの婚約者に喧嘩を売っている、という事に他ならない。

それでも、このパーティーで、エドにプレゼントを直接渡そうとする令嬢はいるだろう。

何しろ、エドは超優良物件だ。

マナー違反をしてでも、エドを手に入れようとする令嬢は、いるに違いない。


私と兄は、目を皿のようにして、参加者達を見張っていた。

プレゼントを持っていないか、渡す素振りはしていないか。

今の所、それらしい動きをする人物はいないが、いたら偶然を装って、プレゼントを破壊する。

当然、相手は怒るだろうが、その時は思い切り泣いてやる。

泣いている子供を更に叱ったりしたら、皆から白い目で見られる。良家のお嬢様には耐えられまい。

この作戦を兄に言ったら、二度とお前の

涙は信じない、と言われた。


意外にも、エドの婚約者のライラ嬢は、華奢で大人しそうな人だった。

とても、アイスピックでエドの目を刺すようには見えない。

終始にこやかに皆に挨拶する様子は、如何にも深窓の令嬢、という雰囲気だ。

この令嬢を鬼に変えない為にも、計画が上手くいくよう祈るしかない。


パーティーも中盤を過ぎ、何事もなく終わるかに思えた。

私は兄と別れ、化粧室に入った。

身支度を整えていると、若い女の子達の声が聞こえた。

どうやってプレゼントを渡そうか、と相談している。

マズい!

この子達だ!

他の人がいない状況で、プレゼントを壊したら、庇ってくれる人はいない。

何とかこの子達を、化粧室から出さなければ。

とっさに私は奇声を上げ、ゴキブリ!!と叫んだ。

悲鳴と共に、女の子達の声が遠ざかって行った。

余程慌てたのだろう、プレゼントらしき包みを置き去りにして。


取り敢えず、プレゼントを1個回収出来た。

私が上機嫌で化粧室から出た途端、誰かとぶつかった。

誰だ、コラ!

「失礼」

エドだ!

片目眼帯の彼も素敵だけど、両目揃うと、目が眩みそうな程美しい。

思わず見とれていると、エドは私が落とした包みを拾い上げた。

「これは?私に?嬉しいな」

「違っっ‼」

言いかけた私の目に『エドワード様へ』と書かれたカードが飛び込んで来た。

名前入りかよ…。

嬉しそうに、ありがとう、と微笑むエド。

あんた、本当に美形だな。


それにしても、エドも婚約者以外が直接プレゼントを渡すのは、マナー違反だと知っている筈なのに。

私はまだ幼い(見た目は)から、カウントされないんだろうか?

と思っていたら、エドの後ろに私を射殺さんばかりの目で睨む、ライラ嬢を見つけ、固まった。

めっちゃカウントされとるやん。

ライラ嬢は手に、何か光る物を持っている。

アイスピックだ!


ライラ嬢は音も無く、こちらに走って来る。

私は固まったまま、声も出せない。

ちょっとエド、あんた次期将軍でしょう?!

中身は何かな?じゃないって‼

後ろ後ろ‼

もう、エドのすぐ後ろにまで迫ったライラ嬢が、アイスピックを振り上げる。

「ハル兄‼」

私の叫び声と同時に、大量の皿やグラスが割れる音がした。

次の瞬間、白く小さなものが、宙を飛ぶのを見た。

…モモンガ?


モモンガ改め、白いテーブルクロスを持った兄は、ライラ嬢に飛びかかると、手に持った布で彼女をぐるぐる巻きにした。

ライラ嬢の手から落ちたアイスピックを、私は慌てて拾った。

芋虫のようにされたライラ嬢が叫んだ。

「どうして、他の女からのプレゼントを受け取ったりするの?!

エドワード‼

貴方は私のものよ!!

他の女なんか、見ないで‼」

…だから、エドの目を狙ったのか。

エドが他の女を見られなくする為に。

狂ったように叫び続けるライラ嬢を、エドは凍りついたように、呆然と見ていた。

騒ぎを聞きつけた父が来て、ライラ嬢を奥の部屋に連れて行っても、エドはじっとそこで立ち尽くしていた。


「多分、プレゼントはきっかけに過ぎないんじゃないか?」

帰りの馬車の中で、兄がボソッと言った。

あの後、父が私達の所に来て、先に馬車で帰るように、と言った。

その時兄に「よくぞ、妹を守った」と言ったのも、聞いてしまった。

兄は嬉しいが、照れくさいのだろう。

耳が真っ赤に染まっていた。

ライラ嬢はどうしたのだろう、と私が兄に訊ねた答えが、先程の言葉だった。

「元々、精神的に追い詰められていたんだろう。

じゃなきゃ、普通あんな事しない」

兄は窓の外の景色を見ながら、そう言った。

ライラ嬢の心の中は分からないが、何かが彼女の精神を壊したのだろう。

そして、その狂気でエドの心を引き裂こうとした。

「エドはどうなるの?」

私が言うと兄はさあ、と言った。

「目は潰されなかったけど、ショックは大きいだろう。

自力で立ち直るしかない」

私はエドがまた笑ってくれる日が、早く来るように祈った。


その後、ライラ嬢は療養施設に送られる事になり、エドとの婚約も解消したらしい。

エドはわざわざ、私達の屋敷にまで来て、お詫びとお礼を言ってくれた。

優しく笑いかけてくれるエドを見て、私はやっぱり両目揃ってる方が素敵、と思った。















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