20話 結局落ち着く時間が一番大事
本日もう一話あげていますのでそちらから読んでもらえると嬉しいです!
初日の撮影を終えた俺はいつもの変装スタイルにセットしてもらい学校の前で降ろしてもらう。そのまま俺は由希と合流して食事に行く予定である。
俺は少し時間より早く着いたため校門の前で由希が来るのを待っている。とはいえ俺もこのまま立っていればバレるか不審者扱いされるかの二択であることは十分に理解しているため待っていることだけ連絡して車の中で待機していた。
「よかったですよ、遥さんが堂々と外で待つとか言い出さなくて。この調子でどんどん有名であるって意識を持ってくださいね。」
「分かってますって…ていうかそもそも校門前にずっと立ってるやつがいたら不審でしょ。…あ、着いたらしいんで行ってきますね。それじゃあ今日はお疲れ様でしたー!」
俺は意気揚々と車を降りて待ち合わせ場所へと向かう。
俺が先に着いたのか少しだけ待っていると由希が向かってくるのが見える。
「あ!由希ちゃん!こっちだよ!」
俺がそう言うと由希は唇の前に人差し指を立てて静かにするようにジェスチャーをしていた。
「ごめんね、待たせちゃって。でも遥ははっきり言って何もしてなくても目立つから大きな声で呼ばなくて大丈夫だよ。むしろ視線が集まるからね。」
思わずテンションが上がってしまったがたしかに軽率だったな…。とはいえテンションを上げるなってのもなかなか厳しい話ではある。
「こっちに向かってくる姿ってなんかかわいくて。それに車で待ってたから全然大丈夫だったよ。むしろ急がせちゃってごめんね。とりあえず行こっか!今日は由希ちゃんのおすすめのところへ連れてって欲しくてね!」
「ハル…あんまりそういうことは色んなところで言っちゃダメだからね?それにしても…うーん、ほんとに普通のファミレスでいいの?前に行ったお寿司屋さんとかの後だとほんとに普通だよ?」
俺は今日自分で誘っておいてなんだが由希ちゃんにファミレスに連れていってくれるように頼んでいる。正直あまり行った記憶がないため昔から密かに興味があったのだ。
「むしろずっと行きたくて。それに気を遣わないお店の方がいいかなって。それに由希ちゃんと一緒だったら楽しそうだと思ってさ。話したいこともあるんだ。」
俺は由希ちゃんに連れられて学校から少し離れたところはあるファミレスへと向かった。
「へー!こんなにメニューがあると楽しいね!由希もよく来るの?」
「うーんここはそんなに来ないかなあ。伊織と何回か来たくらいかも。学校から近いところだとハルのこと知ってる人もいるでしょ?だから今日はここにしたけど、学校の近くの方に行くことの方が多いかな。」
たしかに徒歩でいける距離とはいえわざわざここまで来る生徒は少ないだろうな。
俺たちはそれぞれ注文を済ませ料理が来るのを雑談しながら待つ。
「今日ハルが休んでクラスのみんな寂しがってたよ。全然興味なかった子だってもうみんなすっかりファンになってるもの。学校全体がファンになる日も近いよ。そういえば今日は雑誌の撮影か何かだったの?もしかして…新作出るとか!」
ころころと変わる表情を見ていると心が癒される。ただ新作を期待しているところにそんな話は出ていないということを言うのは心苦しい。
「えっと…新作ではないんだけどね…。あんまり大きな声では言えないんだけどドラマの出演が決まってね、今日はその初撮影だったんだ。…新作じゃなくてガッカリさせちゃったかな?」
「ぜ、全然!え、ほんとなの!?い、いつから放送?」
思ったより食いつきがいい。栞もそうだったが俺が思っている以上にドラマ出演っていうのは重要なことなのかもしれない。
「んー七月開始のやつらしいからぜひ見てね。まぁまだ俺がどれくらい出れるかも分からないんだけどね。」
俺がドラマについて今のところ分かっていることを由希に話すとその度に喜んでくれるので俺も嬉しくなる。由希には話していいかどうかの許可は一応風間さんがくれている。ただどこまで話していいか分からないのでとりあえず全部話した。
「あ、一応今話したことは話しちゃダメだからね?家族以外は話しちゃダメって言われてるんだけど由希ちゃんには特別ってことで許可もらってるからさ。それにそもそも俺の出演ってまだ発表されてないらしくて、なんでもギリギリに決まったついでにサプライズとかで。」
「う、うん!すごく嬉しいよ…!けどほんとにすごいね、月9だよ?ハルが出るなんてちょっと前じゃ信じられなかったよ。」
その後も届いた料理を食べつつずっといかにすごいことなのかを熱弁された。栞も由希も結構なファンらしく正直ハードルが上がっている気がする。
「でも主演が後藤かあ…嫌いとまでは言わないけどね。」
ここまでのリアクションは栞とほとんど一緒だ。そんなにあの人って評判悪いの!?俺の周りだけなのかな…。
「うちの学校でも結構ファンが多いんだよね。あの人はほんとに好き嫌いが分かれると思うなあ。素行は良くないらしいけど若手俳優さんの中だと顔がいいんだって。」
そう言いつつもかなり嫌そうな表情をしているから多分嫌いなんだろう。俺が共演していることもあるからか口には出さないけど顔を見る限り間違いなく嫌ってはいると思う。
「栞も似たようなこと言ってたよ。でも俺は演技の経験とかないから結構学べるとこがあるんだ。学べるだけ学んで由希に呆れられないように頑張るね!」
「楽しみにしてるね!…でも恋愛ものかあ…演技とはいえハルが出てるとちょっと複雑かも…。」
「実は俺もちょっと憂鬱なんだよ…こんなこと言うべきか悩むんだけどね。かっこ悪い話だしさ。」
「そ、それってどういう意味で…?」
少しだけ遠慮がちに由希がそう尋ねる。
「…俺多分振られる役なんだよね…。結末とかはまだ聞いてないけど主人公じゃないしさ。そんな場面由希ちゃんには見られたくないかなってさ。」
俺がそう言うと由希は複雑そうな表情をしつつ一瞬安心したような顔をした。
「私も設定聞いた時にああ振られる役なんだろうなとは思ってたよ。でも振られるハルを見れるのなんてドラマの中だけだと思うから貴重かもね!」
そう言った由希が笑うのを見て俺は他にもいくつかあった理由を話さなくてよかったと安心した。
「…正直さドラマの撮影って自分一人でじゃないから失敗すると迷惑かけるじゃない。それが結構プレッシャーでさ、ちょっと不安だったんだよね。だけどこうして由希と過ごしてるとやっぱり落ち着くよ。俺も忙しくなるし、由希も忙しいかもしれないけど、たまにこうして一緒に過ごしてくれないかな?そしたら俺頑張れそうな気がするんだ。」
自分でも情けないことを言っているなという自覚があり俺は下を向いたまま話した。かっこ悪い話だがそれでも聞いてほしいと思った。少しだけ沈黙があり俺は内心不安を感じていたが顔を上げると由希は少しだけ驚いた顔をしつつも嬉しそうに微笑んでいた。
「私も遥がどんどん遠い人になっちゃうのかなって思ってたから嬉しい。今日誘ってくれたのもほんとに嬉しかったんだよ。私でよければいつでも言ってよ!いつでも会いに行くし話も聞くから!」
自分でもほっとしたのがはっきりと分かった。正直撮影本番よりも今の方が緊張していた気さえする。
「ふふ、それにしてもハルってやっぱり変なとこで自信ないよねー。私がハルに会うのが嫌になったりするわけないのに。」
由希は微笑ましいものを見るような表情で俺を見る。若干の悔しさや恥ずかしさを感じるがどこかで少し嬉しくも思ってしまう。
「由希ちゃんにはほんと敵わないよ…。まぁ由希ちゃんもわりと子供っぽいところあるけどねー。再会もパジャマだったしさ。」
「あ、あれはまさかもう来てると思わなくて…!それにあの日は朝まで寝れなかったから慌ててただけでいつもあんな感じじゃないんだからね!」
由希ちゃんが顔を真っ赤に染めて反論してくる。
その後も日が暮れて帰る時間になるまでの間ただこうして何気ない話を続けた。
この時間のおかげで明日からもまた頑張れそうな気がしてくる。
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