Ch0.5 アデルバード所長とスキル談義(2)
間違えて前の話を投稿していたので、差替えました。申し訳ないです。
「あの! ありがとうございました! 森さん!」
説教がヒートアップしている中、カケルが突然立ち上がって喋りだす。
「とっても楽しい経験ができました! リリース日、楽しみにしています!」
鶴の一声、と言うのだろうか。所長の説教は鳴りを静めた。
「……おお、それはよかった。カケル君だったか。これからも息子共々よろしくな!」
こちらこそよろしくお願いします!、とカケルが言葉を返す。所長もすっかり説教する雰囲気ではなくなったのを感じて、仏頂面をして黙っている。親父の笑顔もこころなしか先ほどよりも屈託がない。
「……やるなあ、カケル」「ええ、さすがね」
カケルにだけ聞こえるように二人で小さくつぶやく。やっぱり僕の友達は最高だぜ!
カケルはそれを聞いて少しはにかんだあと、所長のほうに向いて改めてお礼を伝えた。
「あの、オレらがこうやって楽しめるのも、所長の努力のおかげです!ありがとうございます!」
ぼくたちもそれにならって、各々お礼を二人に伝えた。
すると所長は仏頂面を治し、目を泳がした後、少しはにかみながら、ハーとため息をついた。
「私も大事な客人を前にヒートアップしすぎたわ。……ごめんなさいね」
指を合わせ、モジモジしながら謝罪する美人所長。かわいい。
というか、ははーん、さては所長アニメ好きだな? アニメと違い、現実でそんな風に謝るやつはいないぞ?
そう思うと、色々と合点がいった。上空から着地して砂煙に紛れて登場したのもその影響か!
でも不思議とアニメの所作でも、この人が行うと自然で綺麗に見える。大抵は痛いやつに見えるだろうに。
「不思議な雰囲気な人だね。あ、悪い意味じゃないよ」
「そうね」「ああ、それに美人だな!」
ギロッとエミリがカケルを睨む。黒髪ジト目は睨むと眼力が強い。気づいているのか気づいていないのか、カケルはそれを流す。
「……美人だなんて、そんな」
あ、自動翻訳で全部聞かれてたっぽい。所長が嬉しそうにしている。体が左右に小さく揺れている。
「……まあ、なんだ! 楽しかったろ!アキヒト!」
ガハハハッと親父が笑った。うん、色々とあったけど、楽しかった。ありがとう、親父。
――――
「もうこれ以上はVRテストルームには行かせられないけど、そうね、質問あったりする?」
親父の部屋を出た後、5人で軽食でも食べにいこうかと誘われ、僕たちは先ほどから所長が付けていた銀の輪っかのネックレスを支給してもらい、自動翻訳をかけたまま職員用ダイニングルームに移動している。
質問かあ。正直、まだ先ほどのVR空間の経験を消化しきれていない。
他の2人も同様なのか、うーん、と難しい顔をしている。
あ、そうだ。無難にこの質問にしよう。
「所長はどのスキルがおすすめですか?」
「おすすめね。良い質問よ」
逡巡した後、所長はこう続ける。
「2つの戦闘系スキルと言いたいところだけど、一番はテレパシーね」
あんまり選ぶ人はいないでしょうけど、と所長はつぶやく。
「それは俺も同意だな。このゲームにおいてテレパシーこそが一番の基礎となるスキルだ」
親父が頷いている。はて。なぜテレパシーなのだろう?
「簡単よ。だって本来このスキルはデフォルト機能だもの」
え? なんだって? デフォルト機能?
「簡単なコミュニケーションもとれなかったら、新天地での冒険なんてできっこないわ。チャプター1に関してはまだ未開の地だから、なくともあまり変わらないだろうけど。……なんとかチャプター2までには間に合わせるのよ」
よくわからないけど色々と言いすぎてないかこの所長。親父が苦笑しながら、指を口の前に持ってきて静かにしとけ、と伝えてきた。
「まったく、パパ、納期に間に合わせろって、うるさいんだから。こっちだって頑張ってるのよ。マーケティングなんて、動画もできていないのに、ウェブサイトを立ち上げろってうるさいから立ち上げたけど。ほんとどうしようかしら、マーケティング。これだって思える戦略が決まらないし。あーやだやだ!もう仕事したくないいい!」
所長ぇ……。ストレスが溜まっているのだろう。僕の質問に答えながら、自分の思考にどっぷりハマって行ってしまった。
壁をコンスタントに叩き、ブツブツとつぶやきながら廊下を歩く所長を尻目に考える。テレパシーはデフォルト機能で、一番おすすめなスキルだって?
「……解説プリーズ」小声で親父に助けを求める。
「……どこまでいったものかな。そうだな、簡単にいうと、このゲームには6つの全く新しい言語が存在している。だからテレパシー超大事!ということだな」
6つの新しい言語?!変なところに力いれすぎだろ。……だから納期に間に合っていないのだろうな。