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Ch0.5 アデルバード所長とスキル談義(1)

少し、投稿が遅れました。申し訳ない

「教えすぎよ! 森教授!」


 かわいらしい女性の怒声がVR空間に響き渡った。そして一瞬後、なんと人影が空から降ってきた。


 どん、と鈍い音がした後、なにもない空間なのに砂煙が舞い、降ってきた人物のシルエットだけ見える。


 徐々に砂煙が晴れると、そこには腕を組んで仁王立ちしている白衣の女性がいた。


「I repeat! 教えすぎよ!」


 きっ、とにらみつけ、親父を注意しているこの女性は一体なにものなのだろう。


「おお、所長。ソーリーソーリ―」


 へらへらと笑いながら、謝る親父。所長。偉い人らしい。……所長にたいしてなんたる態度だ!許しておけん!この次元刀の錆にしてくれる!


 軽口はさておき、この所長たる人物はなんであんな派手な登場のしかたを?


「また立派な登場の仕方だったな、バード所長」


「そう? 今度のプレゼンで使おうと思ってるの。良かったかしら? じゃないわ! 機密情報をそんなペラペラと説明しないで!」

 

 ガハハハッと笑ってごまかしている親父。所長は英語だがノリツッコミが冴えている。……まるで日本の大衆娯楽のようだ。英語でノリツッコミなどあまり聞かないのに。


 しかし登場シーンはとても迫力あった。ひと昔前のアニメでよく見たけど、リアルで見るとより感動した。砂煙へのまぎれ具合とかポーズの角度など一生懸命練習したのだろう。彼女の情熱とひたむきさが感じられる。……親父への説教に対してもひたむきだ。親父に近づいた彼女は指を突き立てながら親父を説教している。親父はガハハと笑ってごまかそうとしているが、まったくごまかしきれていない。……長く続きそうだ。


 しばらくガミガミした後、所長は僕たち3人のほうへ向く。金髪碧眼に、赤いフレームの眼鏡を着けている。ウェーブのかかったボリューミーな髪に、身長は少し高めな均整のとれた体つき。ワイシャツをジーパンに入れ、白衣を上からまとっている。靴は動きやすさも優先したのか、黒の少しだけ高いヒールを履いている。


 20代半ばだろうか。勝気な表情のとても美人な所長だ。


「はじめまして。私は――、っとごめんなさい。自動翻訳機能を点けていなかったわ。――はじめまして。私はアデル バード。ここの所長をやっています。あなたたちの名前は?」


 3人とも簡単に各々自己紹介すると、所長が腕を上げる。なんだろう。ハイタッチかな?


「そう。じゃあ自己紹介も済んだことだし、いきなりだけど()()()()()


 ブツン、と音がした。見える景色が暗転する。


 一瞬後、視界がクリアになった。ヘルメットのバイザー越しに親父が座っているのが見える。現実だ。


「ヘルメットはそのままで。改めて、はじめまして。やっぱり挨拶というのは面と向かってしないとね」


 部屋の入口からさきほどの所長が得意げに話しかけてきている。寸分違わず、さきほどの美人所長だが、1つ違うのは首元にネックレスのような細めの銀色の輪を着けていることか。


「かー、いいところだったのによお」


 と、親父が先ほどは英語だったのに、今は日本語で話している。


「You've shown too much! What the actual fu――」


 親父に対して、また所長が英語で説教し始めた。おこぷんぷんまるだ。というか、さっきからわからない英単語や表現が勝手に脳内で日本語に翻訳されている。先ほどの強制終了という言葉も、Force quit という聞いたことがないフレーズだが、勝手に脳内で理解させられた。


 自動翻訳、と確か先ほど言っていた気がする。こんな感覚は初めてだ。


「……うーむ」


 ……正直、英語を必死に習得したのが馬鹿らしく思えてきたぞ。こんな手軽に理解できるようになるんだったら、必死に行った言語習得など意味ないのかもしれない。


「英語を習得したのがバカらしくなった?」


 またエミリがテレパシーしてきた。もう驚かなくなってきたが、やっぱりすごいな、エっちゃん。テレパシー習得してるよね?


「別にまだ有用だと思うわよ。日本語にはない、英語にしかない表現や概念だってあるわよね? その逆もしかりよ。だいたい、日本の歴史と文化が詰まっているこの言語は、自動翻訳されても完全には外国人は理解できないわ」


 だから言語習得するのは、損じゃないわよ。とエミリが励ましてくれている。……なんて最高の友達なんだ。


 そうだな。他国の文化や考え方をしっかり学び、その国の言語を知っておくと、彼らの考え方がわかるようになる。そしてそれは、翻訳では失われてしまう情報も含んでいるのだろう。


「タメになりました。ありがとうエっちゃん」


「どういたしまして。それで、あの説教はいつまでやるのかしら。すこしワタシも参加して文句を言ってもいいかしら」


 静かな怒りをもって、エミリも親父を見ている。確かにだんだんとヒートアップしてきたかもしれない。所長が激おこぷんぷんまるだ。どうしよう。

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