Ch0.4 親父とスキル談義(3)
1つだけスキルを自由に使えるだと!なんて日だ!
「3人とも同じスキル?」
3人とも違うスキルを選べたら最高だが、さすがにそうはならないだろう。
「そうだな。3人で1つだ」
オーケー。では意見を募ろう。
「さて、二人とも、ご意見は?」
「ワタシは二人にまかせるわ」
普段とは違い、意外と消極的なエミリ。やはりいきなりのVR空間は少し堪えているのかもしれない。
「オレは、迷いどころだが、うーん」
カケルが腕を組んで考えている。
「そうだな、オレはライト正宗を使ってみたいかな」
「僕も同意見。ライト正宗で行こう」
性能として一番気になるのは、やはり2つの戦闘系スキル。戦闘能力向上と戦闘技能向上。
ガ〇ツスーツも気になるが、やはり初めてのVR体験だからか、今回いきなり身体能力を向上させるのは少し気が引ける。
「ライト正宗?……ああ、次元刀のことか。いいぞ」
次元刀……?え、なにその響き、かっこいい……!それに比べてなんだよライト正宗って。前から思ってたが響きがダサいぞ。
「名前、統一してないの?」
「してないみたいだな。そういうのは基本他のやつらに任せている」
そういうものか。適材適所というやつですね。
親父が人差し指をせわしなく動かし始めた。見えない画面でも操作しているのだろうか。
そしてシュンッという粒子が集まるような短い音の後、親父の2本の手には3本の柄が入っていた。
「ほれ。次元刀だ。人を切れないセーフティモードにしておいたから、安心して使いなさい」
そういって、順に僕たち3人に一本ずつ投げ渡す。
受け取ると、多少重いが、振り回せないほどではないことがわかる。
「柄の上のほうに有機パネルみたいなパーツがあるだろ?そこを触ると展開する」
触ると、一瞬後に黒い刀が展開された。長さは80㎝ほど。形は刀だが、よく見ると表面がぼやけて、揺らいでいる。色はなにも写さない、吸い込まれるような黒さだ。
「プロモーションの動画とは違う色だね」
「ああ、それが一番省エネなんだ。ほかのはただ色を表面に写してるだけだな。まあ、なんだ。振ってみろ。飛ぶぞ。」
また古いネタを……。
言われたとおりに振ってみる。振ると、刀身が風を切るような音はなにもしない。ブォンブォンとは言わないのだ。プロモーション動画の音は合成音だったらしい。
そして刀身に重さがないので、普通の武器を振っている感覚とはまた違う感覚だ。これは刀を普段使う人からすると、相当な違和感を感じることだろう。
そして残念なことに振っても特になにも切れないし音もないので、感動が薄い。この程度の興奮じゃ僕の心は飛ばないな。
「ああー、違う違う。そうだった。ただ振るだけじゃだめだ。さっきの有機パネルにもう1回触った瞬間、振ってみろ」
ん? どういうことだ? 言われたとおりにやってみる。振った後、ただ刀身が消えた。とくになにも起こった感じはしない。
「親父、どういうこ――」
視界の端に黒い刀がかまいたちのように飛んで行った。一瞬で10メートルほど飛んで、徐々に刀身の輪郭が消えていく。25メートル程度離れたところで完全に刀身は消えていった、と思う。なにしろ一瞬の出来事だったから、確信はできない。
発生源を見やると、横に刀を切り払った姿勢のカケルがいた。またもやポカーンとした表情をしている。
「そう、それ。言ったろ?飛ぶぞって」
物理的に飛ぶのかよ!こいつは一本取られた。
「次元刀は機能的に大きく2つもってる。【次元生成】と【吸着】。ONにしたとき吸着から次元生成の順で展開される。そしてOFFにしたときは吸着から消えて、次元生成も一瞬後消える。だから次元生成機能は一瞬だけ残るんだ。その時に振ると、ああやって飛んでいく」
おもしれーだろ、と今起きたことの原理を説明する親父。というかこれは。
「……教えすぎだろ。親父」
VR初日で、ほとんどこのスキルの奥義のようなものまで教えてもらってしまった。