Ch0.2 カケルとスキル談義(2)
カケルとのスキル談義は続く。
「カケルはどれ選ぶ?」
「オレはやっぱ刀かな。かっこいいし。勇者って感じするし」
勇者。もしくはヒーロー。カケルが目指しているものだ。
昔から、正義感にあふれている、というよりも誰かを助けるヒーローにあこがれているやつだった。悪を滅し不義をくじく。いじめや非行には目を光らせているし、だれかを助けるのに理由なんかいらないと声を大にしていう。柔道と剣道をどちらも習って、強きをくじき、弱きを助けるを体現しようとしている少年。
それがセラ カケルという人物だ。
今時めずらしい、熱いやつだ。友人としても鼻が高い。
昔、かくれんぼをしたとき、ある一人のクラスで嫌われている少年が最後まで見つからなかったことがあった。
正味、その少年のことは僕も嫌いだった。彼は自分だとバレないイジワルを何度もクラスメイトに続けるような、性格のひん曲がったやつだったからだ。ノートを掃除用具入れに隠したり、大切にしているシャーペンを隠れて折ってその反応を楽しむようなどうしようもないやつだった。
そのかくれんぼの日は、なぜかそいつも参加したいと言ってきたので、しぶしぶ参加させた。まだその時はそいつがあらゆるイジワルの犯人だとみな確信に至ってなかったからだ。
そして案の定というか、彼だけ見つからない。
「ぜってぇー帰ったって」
「放っておいて、帰ろうぜー」
皆が探し疲れて、もう帰ろうとしているなか、カケルだけは一人黙々と探し続けた。そしてその姿を見た他の面子も仕方ないと探し続けたのだ。
あたりも夕暮れになり、そろそろさすがに無理だと思い始めたとき、一人のクラスメイトが近くの高層アパートからなにか小さな光が反射していることに気づいた。彼は怪しいと思い、木陰に隠れて、自前のスマホのカメラを起動し、ズームしてそのマンションを見てみた。
するとそこに映ったのは、小さい望遠鏡を使って、僕たちが遊んでいる公園を遠くから意地悪く覗いている性格ひん曲がり少年だったのだ!
そこから僕たちと彼の壮絶な鬼ごっこがはじまり、最終的に彼には正義のドロップキックが執行されたのだが、それはまた別の話。
僕が言いたいのは、カケルは最後まであきらめないヒーローのようなやつだってことだ。
僕はそういった[自分]ってやつをもっている人間が好きなのだ。
閑話休題。スキルの話をしていたんだった。
「刀で勇者かあ。そういえばあのヒーローノートって今何冊目までいった?」
ヒーローノート。彼が小学3年生ごろから書き始めた日頃の自分のヒーロー活動をまとめた日記帳だ。たしか去年にはもう5,6冊は埋まっていたと思う。
途端、カケルの表情がすこし濁った。小さくハハハって彼は笑った。
「あー、アキヒト。頼むぜ。オレももう子供じゃないんだよ。そういうのは、もうやめた」
「そうなんか」
「そうだ」
会話に間が空く。レストランの雑踏の音が耳に入る。ピンポーン。カランコロン。アリヤトゴザイヤシター。
「アキヒトは?」
「え?」
「どのスキルにするんだ?」
「あー、僕は、まだ、わかんないかな」
「そうか。じゃあオレはそろそろ塾に行くわ。チケット、ありがとな。マジでヤミー」
「ネタが古いなあ、おい」
ハハハ、と彼が遠くで笑った。