Ch1.3 ゴブリン村マーダーミステリー(1)
『ぬわ――――っっ!!』
断末魔が村中に響きわたった。かけつけてみると、村の中央のやぐらの前で長老が頭から血を流して倒れている。
『ペロッ...これは、血だ!』『し、死んでる!』『ウワーン、長老!』『ウソダソンナコドーン!!』
あの優しかった長老に一体だれがこんなことを……!
――――半刻前。
『ソノモノヲ ハナシナサイ』『シカシ、チョウロウ!』『ヨイノジャ』
やりに括り付けられた状態から解放された。ドサッと足から着地し、立ち上がる。
『モシ サカラッタラ コウジャ』
ボンッ、と長老の手のひらからサッカーボール程度のおおきな火の玉が瞬時に現れた。 長老まさかのゴブリンメイジである。
特に逃げ出そうだとか戦おうだとかは考えていなかったが、やはりこのゴブリンたちの戦闘力は高めに設定されているらしい。スキルがテレパシーの僕では彼らには太刀打ちできないであろう。
降参、と手をあげようと思ったが、この世界では魔法が手のひらから出るようなので、さも銃口を彼らに向けるように見えるかもしれないと思い途中でやめた。その代わり、ラジャーと手を額のまえにかざした。
『フォフォ。キョウミブカイ ポーズジャノ。……トッツォ、ナッチョ。 アトデ ムラヲ アンナイ シテアゲナサイ』
集団の中から先ほどの眼帯ゴブリンともう一人、女性型のゴブリンが前に出てきた。
「よろしくお願いします」ぺこりと頭を彼らに下げる。
『……フン』『アハハ。ジャア ナッチョも』女性ゴブリンも僕の真似して頭を下げてくれる。
敵意はないということは伝わっている、と思いたい。誠心誠意心を込めてコミュニケーションをとろうとすると、やはり気持ちは伝わりやすくなるはずだ。
『ヤハリ ことば チガウ ヨうジャナ。シカシオヌシはわシらのことばがわかるようじゃ』
彼らを理解しようとすると徐々に、彼らの話す言語がより明瞭に素早く理解できるようになってきている。
うなずいて肯定の意を伝える。
『ドウイウげんりの魔法なのかのう。……女神さまには一瞬でわかるかもしれんが、わしではたぶん無理じゃろうなあ』
長老の話している内容の明瞭さがぐん、と引き上げられた。今の話の途中でスキルレベルが上がったのか。
気になるのお、気になるのお、と長老が興味深げに僕を見る。
……しかしこの世界の魔法とは、いったいどういったものなのだろう。先ほど長老は火を手のひらから放つようなオーソドックスな魔法のイメージの用法をしていたが、彼の言うようにはこのテレパシーも再現可能なのかな?
『……フム。魔法が気になるようじゃの。ひとつおしえてしんぜよう』
この村のやつらは興味があまりないようじゃし良い機会じゃ、と長老が続ける。
『魔法とは、まず事象結果のイメージじゃ。ワシが火を起こしたいと思ったら、最初はできずとも時間が経てば不思議とできるようになってくる』
長老の手のひらから火が噴き出る。徐々にその火の勢いは強くなっていく。……彼の実力は予想以上にすごいらしい。火の大きさはもう僕の身長を超えるほど大きくなった。
『まず起こしたい結果を強く思い、想像する。そうすると原理やら過程やらがはっきりと理解できるようになってくる。……まあわからなくともできる場合もあり、すぐその場で再現可能な場合もあるのじゃがな。そしてその感覚も各々違う場合があるので魔法の説明は難しい』
それを聞いて、僕と多くのゴブリンたちが首をかしげている。……想像するとそれが結果になる、だって?
『そうじゃな、トッツォのやり投げも原理は同じじゃ。狙いたい方向へ定めて投げる。最初はうまくまっすぐ飛ばないが、きちんとイメージして、練習すればやがてそのイメージが現実となるというわけじゃ』
どうじゃ、わかったか?と長老は僕に、というよりもこの村のゴブリンたちに向けての説明を終えた。
正直、半信半疑な内容だ。魔法を使うには、感覚的な部分が多いということだろうか。プレイヤーの僕も習得可能だということを説明してくれているのかもしれない。……なんて優しいキャラクターなのだろうか。
『もう説明聞きたくない。頭がツカレタ。行くぞ』眼帯ゴブリンのトッツォが僕を引っ張る。
『あー、まってよ。もう、面白い話だったのに』 ナッチョ、だっただろうか。そう呼ばれた女性ゴブリンも付いてくる。
『ではまたな、異邦人よ。またあとで話をきかせてくれ』長老がラジャー、と手を額にもっていった。
僕もそれを見てうれしくなって、同じようにラジャー、と返した。
そしてその半刻後、悲劇の殺人事件は起きてしまったのだ。