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Ch0.9 独白

 テレパシーを選択したプレイヤーはたったの一人だけ。アデルバードはこんな結果になった原因が2つほどあったと思い当たる。


 1つは単純に魅力不足。というよりも他のスキルは使用感が比較して想像しやすいのだろう。反面このテレパシーというスキルは目に見える効果が少ない。実際に使ってみると色々と()()()()()はずだが、それは取得するまで実感できないものだ。


 2つ目に森教授のインターネットでの発言。「テレパシー取ったやつが不遇すぎる」という言葉だけが大々的に取り上げられ、心理的に選びにくくなってしまったことも考えられる。ただでさえ情報が少ない状況で、あの発言はインターネット上に波紋を呼んだ。それについてはあの天才教授も珍しく反省しているらしく、「いやー、情報群の同期が安定するメカニズムをまがいなりにも立証出来たのが嬉しすぎて色々と口が滑ってしまった」と、いつもの豪快な笑いは鳴りを潜め苦笑いで謝ってきた。


 この世界の内部情報は意図的に制限している。プレイヤーにとってフレッシュな体験をさせたいためだ。彼らがこの世界を見てバイアスのない状態でどう反応、対処するのかは色々とデータを集めたい。そんなある意味他人任せなメソッドがこのような極端な結果につながってしまうのは半ば予想できたが、予想よりもテレパシーから得られる文化的交流の価値を想像できるプレイヤーが少なかったようだ。


「まあ、べつにそれはいいわ。私にとっては都合がいいし」


 過ぎたことは仕様がない。今回の先行組はあくまでも実験的なサンプル回収を目的としているのだから。むしろ戦闘用スキルに偏ったおかげで、そういった側面の攻略方法に踏み切るための判断材料が増えるのは喜ばしいことだ。


「……でも、期待しているわよ、アキヒトくん。一人だけの異文化交流、頑張ってみてね」


 かわいらしく、しかし底意地悪くアデルバードはアキヒトが一人入った部屋を見てつぶやいた。



――――――――



『では、チュートリアルを開始いたします』


 むなしい気持ちで部屋の隅でいじけていたら、大音量のチュートリアルが部屋中に流れてきた。大人数を想定していたためか、やはり音声が必要以上に響く。とてもうるさい。痛覚制限(ペインキラー)や空腹度の仕様だとか、脱落時のログアウトの場合のペナルティについての説明がされているが、正直うるさすぎて聞くのもうんざりだ。


『――――あー、テステス。よし録音できてるな。それではテレパシーについての説明を開始するぞ。』


 親父の声だ。しばらくぶりの懐かしい声を聞いて少し気がまぎれた。顔を上げると部屋の奥の画面で僕たちも前回行ったVRテストルームに親父が映し出されている。


『正直、このスキルに関しては説明することは()()()()()。なぜならこのスキルで受ける恩恵はすべて直感的なものだからだ。意識するとより明確に相手の言葉を理解しやすくなるし、無意識でもある程度は頭に入ってくるようになっている。まあなんだ。いつも俺たちが話している言語とコツは一緒だ』


 へー、ベンリダナァ。失意の気持ちで聞いているせいかあまり頭に入ってこない。……まあ使ってみればわかるぞという話か。


『他のスキルと同様にこのスキルもレベルアップする。段階的にレベルIからVまで上がるぞ。レベルが上がるごとに聞ける距離と人数が多くなる。レベルVでは20メートル程度まで意識すれば聞けるようになるはずだ。だから諜報とかにも意外と最適なスキルだ』

 

 諜報かあ。なにか忍者的なサイドクエストでも用意しているのだろうか。いつかはもっと目に見える形で役に立つということかな。……最初はあまり役に立たないということかもしれない。


『あと付属のMPアップに関してだが、これはマジックポイントではなく、マインドポイントだ。いうなれば、思考力だな。MPが上がるということは、簡単に言うと脳の出力が若干上がるという意味だ。テレパシー(受信)というアプリケーションが入ったデバイスを脳がいつでも使えるようになった、と考えてもいい。むろん、そのデバイスのあまった記憶領域は他の思考スペースとしても使えるようになってる』


 ……へえ、テレパシー機能のほかにも、頭が単純に良くなるということだろうか。面白い効果だ。


『難しい話はこれで終わりだ。まあ習うより慣れよ、だな。以上でチュートリアルは終わりだ。みんな、この世界を楽しんでくれよ。ボン・ヴォヤージュ』


 映像が終わった。システムアナウンスが脳内に響く。


『チュートリアルが終了しました。それでは、イマジン・ファンタジーワールドに移動しますか?』


 そろそろ、気持ちを切り替えなければ。はい、と一拍おいて選択する。……いざいかん、異世界へ。


 むしろ、一人だけユニークなゲーム体験ができるのだ。そう考えるとお得だろう。他のプレイヤーのゲーム体験もこのVR空間を通して追体験できるらしいし、配信も見ることができるのだ。ならばオンリーワンの自分だけのゲーム体験というやつを楽しもうではないか、と思考を改める。


「よぉーし、僕のテレパシーが……そこそこの火を噴くぜ。待ってろIFワールド」


 多少無理やりだが、気持ちは切り替えられた。ならば楽しもう、このゲームを。


 光が僕を包む。粒子に乗るかのように僕はどこかへ転送され始めているようだ。


『それでは、チャプター1:ゴブリン島まで移転します。10、9、8、7、6、5、4、3、2、1。時間軸、移転先の安定を確認。転送開始』

 

 シュン、という音の後、視界が暗転した。

裏設定(3)


スキルレベルは I-Vまで

出力が20%ずつ上がっていく

テレパシー(受信)の場合、

I.) 1-2人ほど意識すると聞こえる

II.) 聞こえる距離が増える(10m)

III.) 3-4人ほど聞こえる

IV.) 距離が増える(20m)

V.) 範囲内すべての会話を把握可能


アデルバード所長(26歳)の英語表記は Adara Burd

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