Ch0.8 閑散
『スキル選択を終了した方は、選ばれたスキルのチュートリアルを行いますので、選ばれたスキルに応じて専用の別室までご移動願います。その後指定時間からその場にて本ゲームへの転送を行う予定です。スキル選択終了時間まで、残り5分となりました』
「じゃあ、またなアキ。お互い、火を吹きあおうな」
僕の独り言が聞かれていた。恥ずかしい。だがその言い方だとストリートファイターで互いにヨガファイヤーを撃ち合っているように聞こえる。
「フフフ。私のカリスマこそ至高よ……。待っていなさい、私のエルフ王子軍団!(ここまで小声)……じゃあ、健闘を祈るわ、二人とも」
クールに別れを伝えてきたエミリだが、前半部分のテンションアゲアゲなセリフのせいでで台無しだ。
そう別れを言い残し、カケルとエミリがそれぞれ専用ルームへ出発した。僕も向かわねば。
ドアを開き、テレパシー選択者専用ルームに入室する。
まだ誰もいないようだ。前もって決めておいたからか、比較的早めにスキル選択を終えたからだろう。まだ半分以上は先ほどの会場に残っている。
……碇ゲ〇ドウの真似でもして、ドアの前の席に座って待ち構えてみようか。ちょうど正面に長テーブルと椅子がある。
そうして僕はドアの前の席を陣取った。難しい顔をして指を顔の正面に組みながらである。伝わるといいなあ!
1分、2分と時間が刻々と過ぎていく。時間が過ぎていくごとに自分が恥ずかしいことをしているんじゃないかと思えてきた。くそう、でも僕は負けないぞ!これは僕が始めたことだ、だから僕が終わらせるんだ!
3分、4分、……そして5分経ち、ブザー音が会場に鳴り響いた。ようし!耐えきった!僕はあふれんばかりの羞恥心を抑え込んで、役になりきり、やり遂げたのだ。とても誇らしい気持ちになった。
しかし、はたと気づく。あれ、そういえばだれも部屋に入ってこなかったぞ。
『全プレイヤーがスキル選択を完了しました。それでは、チュートリアルを開始してください』
部屋を見渡す。だれもいない。100人は入るであろう部屋の隅に僕はひとりポツンと座っていた。
「……ええ?」
この5分間、僕は一体何の時間を過ごしたのだろうか。一人でドアに向かってモノマネをし続け、結果がこれである。とてもむなしい気持ちになった。
――――
「半ば予想通りとはいえ、まさかここまで極端な結果になるとはね……」
アデルバードは6つの専用部屋を中央から見渡し独り言ちた。スキル選択の集計結果の数字が手元に表示されている。
昇順(%小数点繰り上げ)
戦闘技能向上 30% 121人
戦闘能力向上 25% 100人
環境適応能力向上 19% 76人
変身魔法 14% 56人
カリスマ 12% 49人
テレパシー(受信) 0% 1人
トータル 100% 403人