Ch*.00* プ*ローグ 終***いせかい
……けれども。
押されながらも踏み込む先は決められる。自分で行く先は決められる。未来を想像すれば、それが実現する確率は高くなる。
外国に行ったり、新しいゲームに熱中したり、それらの興奮は僕に現実を忘れさせてくれた。現実から逃げださせてくれた。
だけど、それらもいつか絶対に飽きが来る。
現代人は現実に飽きてしまった。
それもあるのだろうか。僕が逃げ出す先を結果的に間違えてしまったのは。
――――――――――
頭蓋に願いが染み込んでいく。
その大音量は確かに脳内に、精神に響き渡った。
だが――。
『――気は澄んだか』
足りない。
『……願いの質が低い。投げる言葉も少なすぎる。ったく子供かオヌシは』
「~~っるっさいわね! こちとら時間がなかったのよ! ならもう1回、いや何度でも! 私は、アキヒト、アンタに――」
そう。
足りない。
時間が圧倒的に足りない。
言葉を尽くせば、丁寧に言葉を紡げば、平時であればいつかは届くであろう友人たちの言葉。
しかし今のこの世界では――。
『そう何度も、機会なんぞ訪れぬ。不意にしたな……そうら来るぞ。悪意が』
「は? 何を言って」
その言葉を最後に、エミリの頭が爆発四散した。
目をすぼめて、エミリの真後ろを注視する。
レールガンを構えた、天使のような顔をした死神が、いつのまにかその空間に浮かび上がっていた。
「任務完了」
「ッ、エミ」
「――英雄、お前の相手は私だ。……まだまだ、続けさせてもらうぞ、この闘争に満ちた世界を!」
妖怪のように現れ出る鬼人。
闘志にあてられ幾段も強靭になった剛剣が、カケルに襲い掛かる。
咄嗟に次元刀で体を庇うが、態勢を崩され吹き飛ばされていく。
「――がは、クッソ、てめえら、邪魔だぁ!」
吹き飛ばされた先でずらりと待ち構えているのは小鬼ども。
漁夫の利を狙うハイエナたち。
「いや~、すみませんねェ。でもうさぴょんたちも、ポイントが欲しいのでっす! みんなやっちゃえ~。……アレ何人か足りないような」
そうして彼らは闘争の渦に巻き込まれていく。
彼らは、いや誰しもが勘違いしている。
貴様らを中心に世界など回っていない。
だからこそ世界は続いていく。
だからこそこの世界は終わらないのだ。
『……そこの死神。貴様は向かってこないのか』
「のー。任務外だから。
……ところで、こんなに丸い、水晶を見てない?」
「……ああ。水晶って、これのこと? ケイ」
「それそれー。……ってアレ?
……なんで生きてるの? エミリー」
――ハ。笑みがおもわずこぼれる。
この我を瞠目させるとは。
「……ハァ。ケイ、アナタ用心深すぎよ。おかげで私のカリスマに魅了された変身魔法の使い手さんが、一人死んじゃったじゃない。
……私のキュートな説得文もアキには生意気にも効かなかったし、しょうがないわね。
――プランBよ。それ、見える? そこの地面に埋まっているの、超圧縮してた空気玉。……私もこの魔法を使えない空間に入ったから、もうすぐにでも爆発するわね」
死なばもろともってやつよ、と嘆息交じりエミリが言葉を続ける。
「ハァー。だからケイ、アナタも任務達成よ。頭だけじゃなくて全身が木端微塵になるから。
……それとそこのアキの身体を乗っ取ったやつ。アンタ、さっきから緊急回避魔法を極力使わない理由は、アキ本来の魔法を使えば、意識が本人に引っ張られるからでしょう?
だからまぁ、さっきの言葉と合わせれば、アイツも戻ってこられるんじゃないかしら。どう、正解?」
……ふむ。
いやはや驚いた。おもわず足を止めてしまったわ。
『やるな小娘。そうさな。半分正解だ』
そう答え、エミリが怪訝な顔をしたその瞬間――。
超音速のショックウェーブが爆発的に展開される。
身体が、本能が逃避を訴える。
これには流石に抗えない。
これだけ広範囲の攻撃と、コンマ一秒単位で示し合わせたかのように魔法を再使用できるようになるタイミング――。
真に驚嘆に値する。
かがく?と言ったか。その用法も工夫がなされていて勉強になった。
――ただな小娘。
先の口答にこの身体の持ち主が反応しなかった理由は分かっているのか?
これだけの荒療治だ。確かにこやつは人格を取り戻すだろう。
しかし……こんなにも闘争と悪意に満ちた世界へと、果たしてこやつ自身が戻ってこようと思うだろうか?
ふむ。
さてな。
……いやはや。此度もこのぶいあーるげーむ?というやつは楽しかったわ。
モリきょうじゅ、だとか名乗っておったか。今度会ったら褒めてやろう。
しかしもう見るからに遊びは終わりのようじゃがの。
――そろそろ我らも戦争の準備に入ろうか。