Ch*.*** **ローグ 終わら*いせかい
時々ふと思う。
トラックに轢かれても、ヒロインが通り魔に差されるのを庇っても、不慮な事故で死んだからと言って異世界なんて行けるわけがない。
明晰夢で異世界に飛ぶことも、ましては同じ時空の現実の過去に戻って後悔を是正することもかなわない。
時は非可逆で、現実は無情で。僕たちは誰かに押されるように一歩ずつ進んでいく。
今を生きる現代人にはそうすることしかできないのだ。
――――――――
黒の斬撃群を次元を生み出し斬り結ぶ。
『ずいぶんと必死で印象深い形相だな』
「――。その口で、その面でさえずるな。逝け」
――おっと。
素早く身を引く。
『ハ。やるな』
首を刈られるところであった。
首の表面に薄っすらと線が刻まれ、血がにじんでいる。
全く、この身体は反応が鈍くてしょうがない。先から生傷がどんどん増えていく。
しかしこの反応の悪さを抜きにしても、次元生成が間に合わないほど彼奴の斬撃が速く、重い。
対してこちらの動きはひどく怠く鈍いまま。
貧弱な身体のせいか戦闘の反動がすぐに抜けないようだ。
総じて身体機能はすでに限界に近い。このままでは動きが追えないな。
「奥義:空蝉――」
思考にかまけていると気づけば後ろを取られ、いつのまにか居合の間合いに入っている。
器用な奴だ。
わざわざ圧だけ前に残して、空を跳び後ろに回ったのか。
次元刀にカウンターはできまい。生成も間に合わない。
ふむ。極力使いたくないが――。
「――落とし」
――緊急回避魔法、発動。
居合切りに対して、依代の魔法を発動。
ぐらりと、意識が揺れる。
一旦、離れた死角に退避――。
「――出現場所、読めてるわ。というか見てきたわ!」
まるで示し合わせたかのように目の前にエミリがいる。
……ふむ。驚いた。ただ――。
『お前には直接攻撃手段も、ましては防御手段もないだろう』
照準を合わせ、水槍展開――。
……できない?
『――な』
ぐん、とエミリが距離を詰めてくる。
半ば咄嗟に振るった拳も、頭を逸らされ耳をえぐり取るだけ。
魔法が発動しない、だと?
ましてはこの距離で、何を――?
「何って……簡単よ。ただ、言葉を投げかけるだけ。――戻ってこい! バカアキヒト!」
耳に、鼓膜に、頭蓋に大音量が鳴り響いた。
『――が』
……。
クハハ。
おっと。微笑が顔に滲んでしまった。
……おい。貴様。アキヒトというのか。
良い友人を持っているじゃないか。
自らの過去も、迷いも投げうって助けにきてくれる、そんな友人に恵まれているではないか。
――ならば、何故そこまで世界に絶望する?
何が我と貴様を適合させた?
その幻想への信心は、どこから来る?