Ch3.8 Hack完了(2)
「――、一体どういうつもり?」
ショチョウの目が蒼く光る。
バックステップで初弾は躱された。
――ああよかった。
よかった?
僕は何を言っている。ショチョウは敵だ。
照準をもう一度合わせる。撃つ。
合わせる。撃つ。
合わせる――。
『さも簡単に避けるね。やるなぁショチョウ』
バク転。飛び上がり。モ〇ハンの緊急回避。ローリング。
あらゆる手を尽くして先ほどからショチョウは、まるで撃つタイミング分かっているかのごとくすべての弾を避け続けている。
身体をこわばらせようと、たびたびフェイントを交えたり撃つタイミングをずらしているのだが、そんなちゃっちぃ工夫も全く効いてない。
回避を待ってから撃っても、それでもなお避けられる。まるでエルデ〇王じゃないか。
……見てから避けるなんて流石に人間離れしすぎているて。
こちとら音速の弾やぞ。
どういうカラクリだ?
照準を合わせ、引き金を引き絞る――その瞬間にはもう視界から消えているのだ。
「ふーん。ずいぶんと、らしくないわね。女性は大切にするんじゃなくって?」
当然の質問をショチョウが問いただしてきた。
……忍者さながらに壁を走りながら。
というかなんであの人さっきからナ〇トのオープニングみたいな走り方してるんだ。絶対無駄だろうあの動き。
「……」
質問に素直に答えたい衝動と、ツッコミたい衝動に同時に駆られるが、黙ってレールガンのチャージを進める。
……正直言うと僕自身も自覚はある。
先ほどから僕は、僕らしくあるが、らしくない――。
――けど、半チャージが終わり次第レールガンを撃ち続けていく。僕の手は止まらない。止められない。かっぱえび――。
「――ずいぶんと、都合の良いバグね。まったく手を、止める気が、ないじゃない! ……死んでもないのに狂暴化するなんておかしな話ね。……この変な場所の影響かしら」
――せん……ええ?
だいぶ気になる発言をしているが、……気にせず攻撃を続けよう。
気になることならもう1つある。
先ほどからショチョウは何を企んでいる?
僕の攻撃をかいくぐることができるなら、僕への攻撃だって容易いだろう。
僕が半チャージで撃ち続けていくレールガンの弾を、彼女は半目で避け続けながら手元の画面を操作している……のだけど。
操作が終わったのか、顔を上げてにんまりと悪魔のような顔になるショチョウ。
「……はい。強制ログアウトっと。魂には負担かけちゃうかもしれないけど……しょうがないわよね☆」
ポチッとな、と心の声が聞こえた。
――ッわ! ずっりぃ! ザ〇キでこの勝負を終わらせようとしてやがる!
くそ、やめてくれ、その術はオレに効く!
『――させないよ』
そうして天使が僕の体を徐々に空中へと運んで……いかない?
「……アレ。なんかうんともすんともしないわね。ガッデムWhat the hell!」
『流石にダンジョン全域とまではいかないけど、……この部屋の中くらいは生殺与奪権は与えないよぉ』
……ほっほーう。
長年の疑問が今解けた。RPGのボスに即死系の魔法が効かなかったのは、ボスじゃなくその部屋に対策がなされていたのか! アッタマイー。
ありがとう野口さん。おかげで疑問も解けたし助かった。
晴れて僕もついに主人公側ではなく悪役のボス側に立てるようにナタヨ!
ぐわはは! もろたでショチョウ!
別に悪役の犯人でもないのに肌が暗めな関西人の真似をしながら、ショチョウの姿を捉える。
ショチョウは手元の画面を見つめながら、いまだなにやらボタンを押す仕草を取っている。
――油断大敵や! 今こそ最大のチャンスじゃけえ。
『今だ! いけ! やれ!』
野口さんのすごく嬉しそうな声が聞こえる。
……んん?
どこか違和感が強くなっていく。
いやいや今こそチャンスなのだ。
今はそんな違和感よりも――。
――この部屋に来た時の感覚を意識しろ。
世界からズレる感覚。
踏み込み、突き抜けていく感覚。
照準を合わせる。
撃つ。と同時に――。
所チョウの腕をつかむ。
……よし。
飛べた。ふあははは! これでもう避けられまい!
――ぴぎゃあああっっ! といきなり幽霊のように現れた僕にバカ驚いている所長の顔をまじまじと眺める。
……驚いている人の顔を見ると不思議と気持ちが冷静になっていく。
再び違和感。
……アレ。なんで僕、所長に攻撃してたんだっけ――。
――ボッ。
そうやって僕たちは仲良くレールガンの弾丸に包まれていった。