Ch3.7 バグ(5)
穏やかな波の音が後ろから聞こえる。
踏みしめるは砂浜。
生い茂っているは南国風の樹木たち。
ここは島だ。それも南国のリゾート地のような気持ちのいい島。
強い風が時折体を吹き抜けていくが、気温が程よく温かいので、気持ちがいい。
そんな見たことある情景に、銀髪の異分子が一人。
「……ゴブリン島。なつかしい、ね」
位置するは水の世界の天井裏。
水球の上にはなつかしい、先ほどまでの光景が広がっている。
『……円環』
なるほど。
こうなるのか。
……全く、ものの見事に瞬殺されてしまったわね。
『――同じ場所での連続使用はできんから気ぃ付けや』
先ほどの円環はなんでも周囲の魔力を根こそぎ使い切ってしまうため、同じ場所での連続の仕様はできないと以心伝心で伝わる。
「……やっぱり戦力不足ね。撤退よ」
『あいあいキャプテン』
先ほどはできなかった足元の砂への意識の集中を完了させる。
トン、と片足を小さく踏み鳴らす。
ドゴン、と地の砂を周り一面に拡散させる。
「……っ」
私の斜め後方に潜んでいたケイを一旦退かせた。
「ごきげんよう。そしてバイバイ、ケイ。……また後でね」
「……」
空中へとブレる視界の中、銀髪の死神は無表情に無感動にただこちらを見つめていた。
――――
「最初になんでわざわざ残れって言ったの?」
『……あー。人生逃げちゃいけない時もある。あれがそんな時やったんや』
「……答える気はない、と。へえ。……まあいいわ。アンタの能力の仕様も分かったし」
今の戦力的に勝てないであろうことは予想していたのに、この水晶は残れと忠告してきたのだ。
自分の能力のデモンストレーションが目的だったのか、それとも――。
『んで、嬢ちゃん。どないするんや。作戦は?』
「……アナタ、そろそろその似非関西弁? テレパシーだからよく分からないんだけど、その本来の自分の喋り方じゃない方法で話すのやめたら?」
『……ええやろ。別に。ワイの勝手や。で、作戦わい?』
「……。……作戦ねぇ。順当に戦力の増強を目指すのが正解でしょう。ケイにもどうせいつかは追いつかれるのだろうし」
『ほうほう。そいでその戦力の増強の当てはあるんかいの?』
「そんなの1つしかないじゃない。ここはゴブリン島でしょ?」
調教による戦力増強。
初期から所持しているカリスマのスキルを活かしての戦力増強だ。
もちろん狙いとなるのは、魔法や槍を十全に扱えるゴブリンたち。
彼らをもし従わせることができれば、戦力的には事足りるはず。
……ほうら見えてきた。
ゴブリンたちだ。
念動力による慣性を止める。
空から眺めるだけでも、数十匹は見える。
――彼らの能力と、この水の世界のペナルティさえ生かすことができれば、なんとかあとの残りの1日と少しは乗り切れる。
2日目ももう終わる。
休息モードへと入る前に、事を終わらよう――。
もう一度、慣性をつけようと念動力に気力を込める。
『――その選択、待った。
嬢ちゃん、水の神の出現条件のことも織り込み済みなのは流石やけどな。……ワイからのありがたーい忠告や。
――もっとデカくて強いやつを仲間にしようぜ』