Ch3.7 バグ(4)
闘争者と逃亡者を睥睨するは翠玉と紅玉の瞳。
紅い、腰まで届く長髪は陽炎のように燃え盛って靡いている。
焦げたように炭化した、しかし限界まで鍛え上げられている上半身。
翠玉色に輝く鱗によって覆われた脚。
頭には2本の龍角。
――龍人。
あえて一言で表すならその言葉が相応しいだろうか。
「……炎の神!」
魔法少女もとい光の勇者が、表情を歪ませその名を口に出す。
「――姫。光が消えかかっていますぞ」
「……そうでした~。今はピカピカの気分でぇいないとね~。いえー」
輝きを増すために、アイドルか何かのポーズを取る女。
……おいおい。
そんなあからさまに隙なんて見せるなよ。
「――ッ姫」
爺さんが相方を弾き飛ばす。
同時に、彼の腹部が噴き飛ぶ。
「――ぐ、ぬぅ」
腹に拳を突いた形で、サラマンダーが泰然と揺らめいている。
……動きは辛うじて追えた。
否応なしに気付くのはその足の運び方の異様さ。
ゆらゆらと、気づいたらそこに燃え移っていた。
そのままサラマンダーは静から動へ――とどめを刺すべく、鍛え上げた剛腕を振り抜く。
とてつもない爆発音。
『――』
龍の瞳はわずかに瞠目する。
自らの拳が弾かれ、その足がたたらを踏んだことに。
「奥義……木端返し。
――姫!」
「――あいあいさー!
ルーナるな〜、カリバアアアアアアアア!」
五月蝿い掛け声と煩わしいエフェクトと共に、光の剣を振り放たれ、全長2メートルを超えるサラマンダーの全身が光の奔流が飲みこまれていく。
「――アアアアアイアアアアア!」
周囲の地形を瞬く間に変えていく。
光の奔流は確かにサラマンダーの体を崩壊させている。
なのに。
熱気と怖気はどんどん高まっていく……?
「ゥワタァワンダァフォオオオオゥゥゥ、ワァ――。……ええ~?」
光を浴びながら龍人は五体満足のまま、その割れた地形から悠々と出てくる。
その身体の大きさを倍増させて。
今や彼は4メートルの巨人。
どういうカラクリだ。
「合わせろ。英雄」
……ち。うるせえな。
私はそんなんじゃない――。
激しい雨音のような勢いで駆け抜けていく鬼人。
追随しながら影に身を潜める。
「俺が縦、お前は横だ」
「……」
再生に手間取っているのか、龍人はこちらを見据えるが動かない。……確かに攻め時か。
十字に、豪剣と音の無い剣が龍を切り裂く。
鬼人が肩から股先まで叩き切った。
残った首部分を私が切断した。
心臓部と首部分の同時破壊。
本来ならどちらも致命傷だ。
なのに。
劫火は燃える。
肩口から斬られた傷口より、体を癒着させるかのように火が吹く。
まるで蛇のように、いや龍のように炎は首と半身を覆いつくし、龍人の体を再生し、巨大にさせていく。
いまや彼の体は10メートルを超えてしまっている。
この闘争の神と闘うこと自体が、火に油を注ぐ結果になってしまっている……?
「――なんでうさぴょんがこんな目にィ……アハハ」
か細い声が耳に届く。届いてしまった。
ハハ。
逃亡者へのペナルティが、終わらない闘争だと言うのか。皮肉な話じゃないか。
周りを見やるに、例外を除いて、絶望が場を支配しているのを意識してしまう。
――反吐が出る。その環境に支配されて一喜一憂する姿には嫌悪感が止まらない。
それなのに。
「なぁ……オレよ。コレは……いつかのお前が望んだ状況じゃないのか。そろそろ這い出てこいよ」
……英雄、なんだろう?