Ch3.7 バグ(3)
ダンジョン大爆発→爆弾魔撃破→所長にドン引きされる→気まずいので少し離れる→なんか前から怒涛の足音→ものすげえ数のエネミーに追われる←イマココ。
「「みぎゃあああああアアアアアアアア!!!」」
羊頭のハルバード持ちのミノタウロス。全身機械のリザードマン。軽量飛行型ゴーレム。
麗しのコウモリおんな。2つの頭を持つ人狼。獅子の被り物を着けた全身甲冑。
それらに加えて枚挙にいとまがない人型エネミー集団から僕たちは全力で逃げている!
「――ハァッ、ハァ……アキヒト君、あいつらを洗脳して止められないの??!」
「だから、洗脳じゃないですってば! ……撤退するようには、呼びかけてますけど、……なんか効かないです!」
効かない。聞かない。どちらとも言えるが、このダンジョンのエネミーに以心伝心は効き目がまるでない。
まるでロボットかなにかのプログラムに話しかけているようなのだ。……コミュニケーションの形態が違うのだろうか、それとも特定の入力が必要なのであろうか。
以心伝心を飛ばしても、弾かれてしまう。
「私は次元斬飛ばし使えないし……。レールガンも、音が大きすぎるからモンスターを呼んじゃうしぃ……」
まずい。
このまま走っていても、いずれは体力が尽きる。
何か手は、ないのか。
『――こっちだよ』
前方の突き当りに、何か、いや誰かいる。
――少年? ダンジョンの薄暗い雰囲気に溶けるように一人の少年が佇んでいる。
青いおかっぱの髪に、ダンジョンの色と同じ薄茶色の体色。
白い、清潔そうなローブに全身を身を包まれている。
『――やっぱり聞こえるんだ。本当にキミ、異世界人? ……聞いていた通り、面白い子だね』
ついておいで、と手招きしながら壁の中に入っていく青髪の少年。
「――所長、正面の壁を走り抜けます」
「ハァ? 何をいって――」
「ええから! はよ! 行きますよ! ――せーの!」
ドプン、と水の中に入ったような一瞬の感触のあと、広がるは小部屋。
……いや、研究室?
顕微鏡やら、モニターやら、円柱型の馬鹿でかい水槽など、ところ狭しと敷き詰められている。
なんだこれ。デバックルーム?
所長を見やるも、彼女は僕より混乱している様子。
『ようこそ~、って言いたい所だけど、ここじゃ狭いね。ゲストルームに案内するよ』
気さくに手を差し出してくれる先ほどの少年。
握ってくれ、と言っているのだろうか。
「……所長、どうします? 彼はとっても友好そうですけど――」
失礼だが少年の方向を指さし、所長に確認を取ろうとする。
「――彼? ……なにを言っているのよ? そんなとこに人なんていない――」
『――ああーもうじれったいな。 ほら、行くよ!』
少年が強引に僕らの手をつかみ取る。うひゃあ! と所長がビビり散らかす。
――世界が色彩を失い、ブレる。
この感覚は。……似ている。
世界から自分をズラす感覚。
転移魔法の感覚。
世界の境界に踏み込んで、行き先を見据えて飛び越える。
……ああ。なるほど。
こうやるのか。