Ch3.7 バグ(2)
穏やかな波の音が後ろから聞こえる。
踏みしめるは砂浜。
生い茂っているは南国風の樹木たち。
ここは島だ。それも南国のリゾート地のような気持ちのいい島。
強い風が時折体を吹き抜けていくが、気温が程よく温かいので、気持ちがいい。
そんな見たことある情景に、銀髪の異分子が一人。
「……ゴブリン島。なつかしい、ね」
位置するは水の世界の天井裏。
水球の上にはなつかしい、歴史の裏側で葬られた島が広がっている。
「――ねえ、ケイ。記憶を消すってどうやるの?」
「簡単だよ。頭部をを重点的に破壊するだけ。破壊の程度によるけど、そうしたら大分すっきりするよ」
……あ。コレも言っちゃダメだった。などど簡単だと言いながら簡単に口を滑らせる銀髪の兵士。
「……それは怖いわね。過去のはどうでもいいけど、今の記憶を失ってしまうのは困るわ。――マルちゃん」
『あいよ。もうすでに発動させてるぜ嬢ちゃん』
発言が気になったのか、訝しげにわたしと水晶を見つめてくるケイ。
「――ねえ、そこのアーティファクト、さん。……会ったこと、あったっけ?」
『……』
「アナタみたいなアーティファクト、資料でも確認したことない。でも、なんか懐かしい感じがする。……なんで?」
『……嬢ちゃん』
「はいはい。分かってる――わよ!」
スキル【以心伝心】とは全くもって便利なものだ。
わたしのテレパシーとは、性能が雲泥の差ね。
作戦が一瞬で伝わる。
――嬢ちゃん。この下僕に与えられた役割は、記録と再現。
周囲の大気の魔力を利用して、マルちゃんの記録から抽出して再現することや。
『上手く扱いや。……ゴブリンの槍』
空中に意匠高い独特な文様が刻まれている2本の槍が展開される。
「……。なんか、……少なくないかしら? ほらもっとバーっと無数に展開するのかと思ってたのだけど」
『うるさいわ! 今はコレが限界や! ほれ来るで!』
以心伝心を使っても、誤解は生まれるらしい。面白い。
完璧なコミュニケーションなんて。
存在しないっていうことかしら、ね!
まずは1本。音を置き去りにして発射させる。
「……ほい」
まただ。ケイは少し身をよじるだけで、まるですり抜けるように攻撃をかわしている。
……当たってたように見えたのだけど。
おかしい。
間髪をいれず、もう1つの槍を発射させる。
今度は横に回転させる。
点から線の攻撃へ。
空気を切り裂いて、風より早く飛んでいく。
「……と」
またもや超反応。
縦にジャンプして空中へ回避するケイ。
そしてそのまま、槍のストックが切れたわたしにレールガンを向ける。
照準は頭。
「――ごめん、ね」
そこに、空中姿勢でもう避けようがないケイに、一本目の槍がヨーヨーのように戻ってくる。
……ちゃんと刃のついていないほうの穂先だ。殺しはしない。
そうして槍はケイの背中へと直進し――。
その身を貫通する。
「……え」
吹っ飛びもせず、むしろ微塵も空中姿勢のまま動かないケイの体が、ホログラムのように溶けて消えていく。
「――まず」
攻撃を感知するためにテレパシーを展開。それと同時に足元の砂へと意識を集中――やば。
――何も感じない?
「ごめんね、エミリー。……思考を消すなんて、簡単なの」
そうして、謝罪と共に銃口を後ろから突き付けられたわたしの頭は、木端微塵になった。
『……円環』