Ch3.7 バグ(1)
――悲鳴が聞こえる。
「――ッシ!」
殺した。
また悲鳴が聞こえる。
目の前で。
「――ッ」
喉を搔っ切る。ボコボコ、と血に溺れる音が聞こえた。
走り出す。四方から放たれる魔法を避けつつ、切り払い、耳をすます。
助けを呼ぶ声がそこらじゅうで上がっている。
それらの声に応じて、ただ走って、ただただ敵を打ち倒す。
皮肉なもんだ。混迷していく状況の中、はたと思う。
立場が反転するだけでこんなにも**なのか。
もう逃げられない。こんな願望を叶えてしまっては、もう――。
「――キミがうわさの極!悪党だね~。……そんなに苦しそうで嬉しそうな表情は初めて見たよ」
「姫……ご油断なさるな。あやつの剣気……只モノではない。パナイ島ですぞ」
「パナイ島って……アレ? 前に家族で行ったフィリピンの島だっけ? 内輪ネタにしても寒いよじいや」
――ありがたい。誰かしらは私を止めに来てくれた。
二人組のようだ。
かたやじいさんで、もう一人は……なんだ?
……魔法少女?
「ふぁあ~ゴーレムをやぁっとソロ攻略したばかりでつっかっれってる~けどぉ……、こんな悪逆非道を見逃してたら、キャットの50個ある2つ名の1つがが廃るってもんよ~ってね~」
「50もある2つ名。……。ちなみにその名はなんですか」
「そんなの決まってるでしょ~お。――形態:女勇者」
まるで光が凝縮されているかのような真っ白に輝く剣。
身体の端々からにじみ出る光を覆い隠す、青く絢爛豪華な戦闘衣装。
そして逆立つ髪を支える金色のティアラ。
突然光が天から彼女に向かって差し込んだ途端、魔法少女はそんな光り輝く装備を身につけていた。
……まぶしい。
彼女の育ってきた環境が透けてみえるかのようだ。
豊かな光の中で、温かく生まれて育ってきたのだろう。
「悪鬼を打ち滅ぼすは、勇者なり。昔からのお約束でしょう? ……なんてね~うっふっふ~」
ハハ。
屈託のない、笑顔をこちらに向けないでくれ。
自分と比べて、殺したくなってしまうだろう?
外付けの光と、外付けの闇。
環境の産物たち。
そして――。
「――そうだ。それでいい! 英雄願者よ! 歴史で言う英雄は、ただ人を殺すのが上手であった者どもだ! ――それこそ! オマエが! 真に望んでいた姿かたちか!」
――鬼人。
環境を顧みない者が、闘気に連れられて妖怪のように現れ出でる。
「――うっわ。マジか。バケモンどもが勢ぞろいしちゃったよ。……うさぴょんはもうストレスで死んじゃうよ。……みんな逃げろーって、逃げられないのかぁ」
最後に有象無象。恐れおののき、逃げ出そうとするも黒いもやがまとわりつき動けない。
――昏い炎が心に満ちる。
これぞ闘争。
……まずは邪魔な腰抜けの有象無象ども、そして鬼人、最後にメインディッシュであの妬ましい女をねじり切――。
『――アナウンスメント。
火の世界においてペナルティ違反者のカウントが一定数を超えました。
――ペナルティとして、精霊が召喚されます』
轟々と。
突如として地表からほとばしる炎柱群。
その天地を汚す様は、一瞬にして目を灼き肺を焦がす。
熱気と共に怖気が辺りに立ち込める。
乾いた砂漠でなおも燃え盛る――その大火の中心には、巨大で強大な影。
かくして闘争者たちは目の当たりにする。
闘争の神を。