表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

116/136

Ch3.6 異端者ども(1)

2週間遅れですが再開します。

……みんなも夏風邪には気をつけようね!

 夢から目を醒ます。スリープモードはもう終わりだ。


 目を閉じ、耳を伏せ、独りでに砂漠を踏みしめ歩き出す。


 歩くたびに足が砂に埋もれる。埋もれる足を地中から引き抜き歩きながら考える。

 こんなにもオレの体は、ずっしりと、鈍く、重かっただろうか。

 体も心もまるで体重が、いや密度が倍になったみたいだ。


 軽やかに空中など、いまや駆けられない。昔とはもう決定的に違うことを自覚してしまう。


 昔のオレは、人助け(いいこと)をするのが得意だった。ヒーローノートなんていつまでも埋められると思っていた。

 それが当たり前で正しいことだと信じられたから。見返りがなくとも、いつまでも、どこまでも続く空のように、無限にソレを行えた。


 ただそれは虚像(フェイク)であったと、鬼人の言葉で気づかされた。


 見返りを期待せずとも、せいぜい3割4割の確率で他人への善い行いは自分へと還ってくる。


 そんな風に、損得を気にしてしまってからは、空虚(じゅんすい)で、軽やかな気持ちを保つのが難しくなっていった。




 ……ならば人を傷つける(わるい)ことは? どれくらいの確率でその業は自分へと還元される?



 ――。


 その答えは()()()()()()()


 

「……アハハ、魔法耐性は低いね。成績(ポイント)トップタイのアイツ限定で油断させているから、()()()やっちゃって? 早い者勝ちだよぉ」



 ……まだ起きたばかりで感覚が鈍くなっているのか。

 50人は超えるだろう大量のプレイヤーに囲まれていることにいまさらながら気づく。


 先導しているのは兎耳フードを被って底意地悪そうにニヤニヤしている女プレイヤー。その彼女は一仕事終えたのか、集団から離れていく。

 集団に囲まれるなど、()()ならこんな油断は絶対にしないのだが。


「……」



 ――言い訳をしていた。


 思考が止まらない。どうしてかこれから始まるであろう戦闘に集中できない。


 ――環境のせいにして、オレの意思とは関係ないと、ずっと言い訳をしていた。

 でももうできない。してはいけない。


 集団の目はギラギラと獲物を見定め、今にも襲撃してくるのが伺える。

 しかし思考はどんどん乱される。現在という焦点を見失う。


 ――オレはその空虚の奥にあるものを、覗いてしまった。乾いた願望(よくぼう)を自覚してしまった。



 ――だから。

 

 おぼろげに周りを見据える――50人を超える集団の半数ほどだろうか――それぞれ炎や風刃など多種多様な魔法を展開させ、力場を発生させ、刀を握り、身体に力を凝縮させて――。


 オレへと躍りかかる――その寸前。

 呆然とするオレは次元刀を持った片手をただ、振るった。




 一閃。




 ……いや、一掃と言い換えようか。




 近くにいたのプレイヤーの首が――ずるりと落ちていく。




 暗殺なんてもう慣れた行為だ。


 ……正面戦闘なんて最近はあまりしないが、油断していようと、まず失敗しない。

 

 しかし油断しているおかげで、自制心が緩み自覚する。


 ――オレは、血に飢えている。





「――は? みんな死んで消えていってる……え?」



 残る獲物(ターゲット)は、周囲の被害におののいている残りの20数名と、奥にいる先ほどの兎耳フードの女。

 とてもとても美味そうだ。



『スキル:(カラ)の英雄(変化)に新しい変化先が登録されました』


 思考は止まらない。

 しかし長い夢から醒めた気分だ。


 ……オレはずっとつまらない、取るにたらない、空っぽの人間であった。

 

 英雄(ヒーロー)を志したのも、それを隠すためだったのかもしれない。


 親の言うことを聞く。社会性(ルール)を守る。

 目に見えて困っている人を助ける。


 なぜ? 分からない。理由(なかみ)なんて伴っていない。


 オレはつまらない人(いいひと)なのだ。


 だからだろうか。

 オレは必要以上に深く人との関係は作れない。


 それにオレことセラ カケルの風貌を憶えている者はあまりいない。


 ……よく人は名前と顔が一致しない、というが――。

 オレの風貌を憶えている人はほとんどいない。

 仕事に支障を来たすからだ。


「そうだろう。なんたって()は――」


 

 ――**者なのだから。



『スキル:(みのり)堕狩人(おちかりびと)(変化)が発現しました。


 ――効果として、今まで行ってきた()()を自覚すればするほど、自信の重さ(パワー)を増すことができます』



 空はもう飛べない。地に足つけて、腕を振るう。

 


 ――勇者(ヒーロー)は15歳で魔王を倒せと命じられた。

 ――暗殺者(オレ)は15歳で人を殺せと命じられた。



 どす黒い血痕が身体中に浮かび上がった。

 それと同時に、迷いも自制心も、英雄願望も全てが消える。



「え……ちょっと待ってよ! ヤバいヤバいこうなったらもう、奥の手を……」


 重さを増したので、強化した腕に体を引っ張られることがなくなった。

 マシンガンのように次元刀を縦横無尽に振り放ち、寸分違わずプレイヤーたちを狩り続ける。



「「――魔法、展……開! 発射ァッ!」」


 ああ。やはり思考(ゆだん)は止まらない。最初に打ち漏らした数名が魔法の展開を完成させ、発射させてくる。


 迫るは無数の風刃と炎弾。


 ……ただ。

 

 魔法は正直、銃弾より怖くない。

 目に見える速さでしか、()を追ってこれないからだ。


「――震脚」

 

 避けながら踏み込み、砂が舞い、大地が揺れる。

 たたらを踏み、動けない彼らを次元刀で魔法ごと叩き切っていく。

 近くにいた最後の生き残りが、必死の形相で私を見ている。


「……異形(バケモン)かよ。……誰かァ! 助けてくれッ!」



 ……助けてくれ、だって?

 おいおい。

 そいつは(オレ)のセリフだろう。


 次元刀もといライト正宗。

 機能としては次元生成と吸着。

 異世界での戦闘、そして切断した物体の送信と研究調査のための試作開発デバイス。


 切断物は疑似人口魔次元を通して送り、研究所にて成分表や新たな元素の発見、そして魔法の現実での応用化のために使われる。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ