Ch3.5 そんなこんなで逃亡者は(3)
ボス部屋にあった狛犬たちの体が消えていく。あとに残るはかすかな赤い血の跡と獣臭さのみ。
「ぜぇ、ぜへぇ、ぜぇ。よくも、この私を、呼び出して、くれたわねえ……!」
以心伝心を使わなくとも分かる。怒っとるやん。戦闘の疲れもあるが、悔しさと怒りで顔が真っ赤っかだ。
……でも僕が悪いのではないのです! この手が悪いのだ! この手とガチャが勝手に!
「――ッあ! よく見たら、ガチャの最初の一人は強制的に私じゃない! 誰よこんな設定にしたやつは!」
肩を上下させながら所長はガチャマシンの仕様を遠目で確認しているみたいだ。管理者権限で設定等が目視可されているのだろうか。
いやあそれは僕には見えないから分からないなあ。
……なんて。こんな虚言は流石にモラルに反する。すみません。この薄汚い虚言をもって罪を償うときはできれば来ないでほしい。
ガチャの仕様に関しては多分、も、から始まって、りで終わる教授の仕業だと思う。悪意はガチャからは感じないから、純粋に応援と好奇心から設定したのだろう。……なんて嫌な人なんだ。かわいそうに所長。
流石に誉めて気を取り直してもらおう。
「――所長。先ほどはありがとうございました! バッサバッサ切り倒していく様、強靭で無敵で最強でした!」
……いやいや。聞いてください。こんなにあからさまに誉めるのにも理由はあるのです。
僕の戦闘能力はあからさまに低い。なので僕にとって彼女の力はこれから生命線となりうるのです。
調子に乗せなければ。生きねば。
「……調子のいいことを言って。……でももっと褒め称えなさい。かっこよかった?」
荒れていた鼻息がムフー、と感情の種類を変える。尻尾が生えていたらぴょこぴょこ振れているかもしれない。
……ちょろい。と瞬間思うが心の中で打ち消す。
個人的に言葉は本音で語らなねば効果が薄まると思います。
失礼なことなんて思わないほうが内外共に結果的に平和だねぇ。
「――いやあ所長こそ至高にして最強ですね! もうスキル捌きなんて、さすがの一言じゃ表せないくらい……あれ? ていうか所長スキル全部使えるんですか?」
「――あら。気づいちゃった? そうなのよ! 私才能豊かだから、全部のスキルに適正持ってるのよ! 泣いて驚きなさい!」
なんか自動翻訳の効きが悪いな。切るか。泣いて驚けなんて英語でも日本語も言わない。
まあそれはともかく。……全て使える、だと?
「……え。じゃあ変身魔法も使えるのですか?」
「ええ。使えるわよ。でも私が得意なのは、なんといっても剣捌きと未来予知で――」
――所長が調子にのったことを言い始めるなか、僕の思考は飛んでいってしまう。
時折、所長の実力は世界的ですもんね、と適当に相槌する。
うん。なら――。
乗るしかない。このビックウェーブに。
――――――――――――
「――ぜぇ、ぜへぇ、ぜぇ。よくも、こんな計画に、付き合わせて、くれたわねえ……! ……脇腹ぁいたいぃ」
僕たちは今、変身魔法を自分たちにかけて階層を爆走の途中である。
敵も全て無視できるので、攻略(?)はもう最高効率だろう。
「てゆーか、アンタ、よくそんな、体力というか気力がもつわね……! 左肩が外れたままなんでしょ?」
……あー。そんなこともあったけ。
ま。なんとかなってるから、大丈夫でしょ。
スキルの走力強化のおかげか疲れもあまり感じない。このままいこう。
ちなみに変身魔法のモデルは最初に会敵したあのこうもりおんな。言ったろう? キミのことは忘れないと……。
イベント1日目は(ほとんど)終了です。3人の同時進行が意外と難しい。。。修正案件かこれは?
ちなみに当初はここから終着点に向かっていく予定だったのですが、少しプロットを追加して2日目においてのこの3章の世界を丁寧に描きたいと思いまっす。
であふぉー、1,2週間更新を空けるかもしれません。ユルシテ
6月末までにこの章は終わらせる予定です。
よろしくお願いしまっす。