Ch3.5 それでも探究者は(3)
交渉術の基本として、というよりも理想として、お互いに手札を開示するのが最善といえる。
ゲーム性もひったくれもないが、例えば二人でババ抜きをするとしましょう。
ゲームの進みを早め、終了することを二人の共通の目的とするなら、お互いに手札をオープンにすればゲームスピードは格段に早くなる。
お互い場に手札を開示して、ただ必要なカードを交換していけばゲームはすぐに終わるからだ。
交渉術も原理としてはババ抜きと変わらないところは多い。
お互いに協力して、相手も自分も欲しいものを正直に伝えるならスムーズでロスも無く、win-winな関係は作れるのだから。
変にだましあいも、ひっかけもいらない。時間は有限であるし、協力できるなら正直さは美徳だ。
ただし最終的に問題となるのが、不公平性となる。現実でも一方は問題を持っている場合も多い。もしくはお互いに秘密を持っている場合もある。
長期的な関係を築きたいのであれば、やはり理想として正直さは大事である。
しかし短期的な交渉である場合、人の悪意に左右される場面の方が頻度として多い。
そしてその場合理想は簡単に崩れ去る。
ならば。どうするべきか。
『――キサマハ ワレニ ナニヲノゾム?』
「……逆に聞くけど、……アナタはなんでこんな寂れた辺鄙なところにいるの?」
『……ン? ココニイル リユウカ? ミョウナ コトヲ――』
「――あと他にも聞きたいことはいっぱいあるわね……例えば、ここの先住民はどこへいったの?」
『……ヌヌ?』
「もしかしてあの光って先住民だったりする?」
「どうしてこの場所は滅びているの? その原因は?」
「おおかた魔法よね。ていうか魔法ってなに? あなたは存在が魔法と近いでしょ。メカニズムも教えてくれない?」
「あとは……そうね。あなたがどれだけ自由に動けるのかも聞きたいわね。あ、あとは――」
『――オ、オオ?』
怒涛の質問攻めである。
相手の手札を全てオープンにしつつ、自分の手札をできる限り伏せる。これが現実での応用となり、相手を信頼できると判断できるなら、自らの手札を少しずつ開示していくのが正解と言える。
――などと論理は理解しているけど。
ぶっちゃけわたしもこれで合っているかはわかんないのよね。
だって高校生(笑)だし。
というかわたしの性格的にこれしか方法を知らない。
さあ。どう出る?
『……イッテイルコトガ ヨク キキトレンガ、フム。…………知恵か。知恵を望むか』
……ぐん、と言葉の明瞭さが上がった。……コイツまさか。
『――ああ。そうかキサマは知らんのか。この以心伝心のやり方を』
『この魔法は、そうさな、歴史上に突然現れた。誰もが今まで使えなかったのに、突然誰もが使えるようになった。そこから魔学が生まれ、飛躍的に――。いやよそう。これはまだ決まっていない話であった』
『――して、娘よ。キサマのことは理解した。なるほど。数奇な人生を送っているらしい。それにこの運命。クカカ。面白い。我らが主の死神となるか、救いとなるか――見ものだな』
――直感的に理解する。
コイツ。わたしの言語も思考も、過去も将来も、手札すべてを理解したのか。
……つくづく魔法とは厄介だ。現実の理論も、基本も全て無視して、応用できるのだから。