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Ch3.5 かくして闘争者は(3)

『――斯くも良き闘いであった。ナァ? 英雄願者よ』


 決死の勝負した後だ。

 気まずくも同じ空間に、というか空中で浮いていたら話しかけられた。

 

 幽体状態(ゴーストモード)だからか先ほどまでの鬼気は霧散している様子。


 オレ自身も心身が回復に専念しているともいえるのか、多くの情動が薄れている。

 

 HPが全損したので、ステータス上で完全回復するまでオレたちは仲良くこの状態だ。


『……あー。鬼人さん、じゃなくて、……なんて呼べばいいすか』


 怒りはない。悔しさもだいぶ薄れた。

 ただ()()()相手から話しかけられるのは初めての体験だ。

 多少戸惑うのも無理はないだろ。


『ノーランだ。……私の名前はノーラン。生に絶望した(ありふれた)者の名だ』


 意外にも少し陰を感じさせるように顔を伏せるノーラン。

 彼は見るからに外国人の顔立ちだが、ほりはそこまで深くない。

 オレの美醜感覚では量り切れないが、顔立ちは整っているも華がない、と言えるかもしれない。

 例えるなら売れない白人役者か。先ほどの戦闘の時とは雰囲気が大違いだ。


 戦闘の時はやはり動き1つ1つが大仰で、大男でもないのに周り全てを飲み込むかのような力の奔流を体中からほとばしらせていた。

 それがいまや霧散している。まるで馬から下りたナポレオン状態だ。

 

 しかし徐々に徐々に、目に、顔に、首に、かがやきを取り戻していっている。――()()()()()()()()()()()()()



 そして突然、「いや名前などどうでも良い」などとノーランはかぶりを振る。



『重要なのは、……そう。何者であるか。お前の動きは軽快で、()()で、……しかし無限の可能性を感じさせるものだった。だから気になったのだ。


 ――お前は、本当は何者になりたいのか』


 ……。――?


 鬼人がこちらを真っ直ぐに見据えて語ってくる。


『お前のその()()さは、不一致からくるもの。肉体の素養と心の意思が一致していないからだ。……いやその空虚さこそが願いの本質か?……分からない。それはお前にしか分かりようがない。そうだな。もしお前がソレを埋められるなら――』



 ……よく、言っていることがわからない。

 何をそんなに熱く語っている。


 オレたちは今日初めて会った、というか戦ったばかりの相手じゃないか。

 


 ――疑問を持ってはダメ。それが当たり前(いいこと)なの。

 ――ただ、言う事は聞いていればいい。分かった?


 脳内で教え(アラート)が作動する。


 しかし。――ビキリ、と。


『――真の闘いとは、己が内で起きるものだ。それを制してこそ、信念となって現れでる。……現実も、幻想も、そこだけは大して変わらぬ』


 ノーランが、鬼人が、家族も友人も他を顧みない者が唇に力を完全に取り戻していく。


 彼の()()()()は増していく。そのかがやきはとどまることを知らない。周り全てを包み込み、貫いていく。


 ――ビキリ、と。

 心の空虚さがひび割れていく。


『この世界は有象無象に満ちている。己を知らず、出不精に生きる者たち。……私もそうであった。そうだな。お前は違う、ように()()()()()()()()

 何がお前をそうさせる?』


 ……いや。……疑問を、もってはいけない。

 生き方を、環境を否定してはいけない。

 

『何がお前に私を、かなわずとも止めさせた? 私はそれを知りたい。……それを理解できれば、私はまた一歩進められる』


 ……。そうか。

 この人は、真っ向から立ち向かいたいのだ。知りたいのだ。

 全ての逆境を。理解して乗り越えたいのか。


 それに対して。

 オレの本来の願いとは。

 オレの空虚さの奥にあるものとは。


『この人生(ゲーム)は己の生きる意義を思い起こさせるように出来ている。……しかし()は違う。下卑た者どもの浅ましい猥雑な考えが透けて見える。そしてそれはかくも薄く、あさましい。全くもって嘆かわしい。……次には戻ってほしいものだ』


 ……っ。


 ひび割れは一旦止まった。

 というより止めた。


 ――分からない。

 この人の言っていることは、支離滅裂で分からない。


 ……くそ。

 ……思考も鈍くなってきたのか、考えがまとまらない。


 ゴーストモードから休息(スリープ)モードに入ろうとしている。


『――己が信念を()()()()()()()()()よ。願わくはその様極まれたり。己が心に理解を。空虚を捨てよ。そしてまた美しく生に対して共にもがこうではないか。ハハハ。ハハハハハハ。ハハハハハハハハハハハハハハハ!』


 思考がまどろんでいくなか、気を散らす笑い声は、貫くように脳内に響いていった。

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