Ch3.5 そんなこんなで逃亡者は(2)
階層はたぶんー13Fにたどり着いたくらいだろうか。
ズゥゥン、と音に聞こえるような威圧感を放つ扉が目の前にある。
いかにもなボス部屋だ。おどろおどろしい雰囲気が辺りを立ち込めている。
しかしその重厚な扉の前に珍妙な物体がある。
自販機、であろうか。いやよく見るとデカいガチャガチャだこれ。
「……一体なんなんだコレ」
こういう雑なところにアデルバート所長みを感じてしまう。こういうテーマとかは一貫させようよ……。
「――初回0ポイント……次回から1000ポイント消費で一定期間ヘルプユニットを呼び出せます!……だって」
僕の今の持ち点は500ポイント。はじめのこうもりおんなに加えて、道中避けられない4体の敵は、小石を遠くから投げてトラップを発動させて葬ってきた。……よもや卑怯とはいうまいな。
直接倒していないが、近くにいたので倒せた判定になっていたのだろう。厳密には分からないが、どうも一体100ポイントの計算らしい。
「ということは、初回しか引けないね」
他のプレイヤーだったら、道中の敵を多く倒してポイントウハウハだったりするのかな。で、これに散財してバカを見ると。
「……まあ引いてみるか。ガチャ」
興味がないと言えばうそになる。やってみよう。
「テン↑テン↓テン↑、テンテンテン、テンテンテン、テッ↑テッ↑テー↑」
馴染み深い召喚ガチャのBGMを口ずさみながら、レバーを下ろしガチャを回す。
――! 虹色の演出! こっ、これは!?
……なんて。こういうときの運は自分で言うのもなんだが、あまり無い。
期待しないでおこう。
ガシャポン! と勢いよく1つのたまごのような球体が飛び出てくる。壁にぶつかり地面へと落ちたその球体は2つに割れ、発光し――!
「……ハ?」
おめでとう ! なかから アデルバート所長が でてきたよ !
「……は?」
「……ハ?」
ポテチを口に運んでいる途中で固まっているアデルバート所長がそこにいた。
――――――――――
20数頭はいるであろう、虎のようにデカい狛犬が続々と突撃してくる。
対して彼女は次元刀をただ置くように空に差す。一秒、二秒と刀の位置を変える度、血しぶきが舞う。
その血しぶきの発生源たる狛犬たちは、刀にまるで導かれるように突っ込んでは、切り裂かれていく。
「――なんで私が、こんな目に、あうって、言うのよッ!」
我らがアデルバート所長、文句を言いながらも獅子奮迅の大活躍である。ありがてぇありがてぇ。