Ch3.5 それでも探究者は(1)
近くに寄れば寄るほど、広大に見える水球の世界。
中に侵入するも、しかしいまだ生物の影は見えない。
段々と近くに見えてきた建造物も、よく見ればうち滅ぼされているかのような古城だ。
……きれいで可愛い生き物はいないかもしれない。残念。
――何故きれいなものが見たいのか。
心が洗われるからだ。
しかし一方で、最近感じることがある。
完璧に美しいものなど、この世に存在しないのではないのかもしれない、と。
だから幻想にそれを求めた。
それでもまだ見つけられていない。
いつか見つけられたらいいな、なんて思う。
「……まぁまぁ、ね」
生物の影は見えない。代わりに見えるのは無数の光で彩られた幻想風景。
無数のホタルのような光が深水世界を瞬きながら漂っている。
そして淡く照らされるは古城のある無数の空間。城を1つ包み込める大きさの気泡に抱かれ、多くの空間が渦のような筋道で互いにつながっている。
1つ、近くの空間に入ってみる。
……やはり空気で満たされているのか、呼吸ができそうだ。
原理的にわたしの魔法と似ているのかもしれない。
わたしも水中世界の中では自分の周りを空気で包み込み、それを動かしながらここまでやってきた。
便利だなんて、自分でも思う。
……あのゴブリンの深層意識を見抜いておいて――。
――怒り、悲しみ、そして罪悪感に満たされた心。
しかしそれでも手に届かない、本来操ることができないモノを動かしたいと思った。いつまでも変わらなかったモノを、壊して変えたかった。
……運命というやつを変えたかった。
――正解であった。
まあわたしの理解も加えているので、彼の魔法の性質とは幾らか変わってしまっているが。
さて、他のプレイヤーたちはどうやってこの世界で移動をしているのだろう。そう疑問に思い、余裕もできたので辺りを見回す。
「よく見えないけど、……ふつうに泳いでるやつもいるのね」
周囲の幻想風景を楽しみながら、潜水を楽しんでいるプレイヤーたちが各所に見えてくる。
あれが環境適応能力向上ウェアだろうか。
1つの機能として、衝撃耐性もあり空気の循環が可能な膜を体の周りに展開できるスキル。
このスキル単体では、今回のイベントでようやく日の目を見たともいえる。
戦闘能力向上と組み合わせれば、複合スキルとして瞬間完全防御も可能となるのだが――。
「あれが本来の行き来の仕方かしら」
もしそのスキルもなければ、あの迷路のように連なっている渦を通って各所の城を訪れるのだろう。
流石にその方法にはリスクが高いと感じるのだろうか、各プレイヤーはそれぞれ自分なりの水中への解決法を用意しているように見える。
ここは一見、他の世界と違って争いが少なそうだ。
「……アーティファクト拾いがここでのポイント稼ぎ方法かしら」
……ポイント。景品。探索。争い。競争。
さてさて。
今回の運営側の狙いは、一体なんなのでしょうね。