Ch3.4 ハック&スラッシュ・レイド・バトロワ・アドベンチャー(2)
セラ カケルは乾いた空を駆ける。
マントは付けていないが、さながらヒーローのように。
ヒーローはよく、空を飛ぶ。
必要とされる場面へと急行するためだ。
空の英雄。
自身の体の出力をそのままに、重さをとてつもなく軽くする魔法。
それがこの空中を駆ける動きを可能にさせている。
しかし――。
「――うわくっそ! またかよ!」
体に黒いもやがまとわりつき、一瞬で地上へと引き戻される。
強制的に地表の砂漠へと戻ってこさせられた。
そして正面には敵。
全身が影のように黒い人型の敵。
敵。敵。敵。
敵。敵。敵。敵、敵、敵、敵、敵敵敵敵敵敵敵敵敵敵敵敵敵敵敵敵敵敵――。
――戦闘において特定行動を禁ずる。
脳裏によぎるは火の世界においての特殊ルール。
それは――。
「敵前逃亡は……ダメってわけか。アキとエミリには悪いけど……こりゃ合流はむずそうだ」
よくあるRPGにおいての最後の手段――それが使えない。
この火の世界において、大魔王からは……いや誰からも逃げられない。
――――――――――
「まったく二人はどこで道草食ってるのかしら」
目の前で爆発音だとか、レールガンの発射音だとか、騒音が鳴り響いて止まない。
しかし一際とどろく大轟音が地面を揺らし、多くのプレイヤーたちを動けなくさせている。
「……空中に退避ね」
ふわりと体を浮かせ、空へと体を急上昇させる。
すぐに辺り一面を見渡せる高さまで上がった。
「見ろ、人がゴミのようだ……とはよく言ったものだわ。――前の……10倍くらいのデカさかしら」
アリのように小さく見えるプレイヤーたちを、アリのようにつぶしていく超巨大なサイズのゴーレムの全貌を視界におさめる。
――プレイヤー間の戦闘を禁ずる。
脳裏によぎるは風の世界においての特殊ルール。
安全なエリアだと思っていたので、集合場所にしようと目論んでいたのだけど……。
『GGGGGGGAGAGAGAGAGAGAGAGAGAGGGGGGAAAAAAAA!!!!』
今回のゴーレムは腕ではなく足が長い。そしてタップダンスを踊れる。
無駄に効率的な技法でプレイヤーたちを踏み潰していく。
相変わらず、というか殊更に今回のイベントは性格が悪そうだ。
「こんなのと戦闘なんて興味ないし……そうね。このまま水の世界の方へ行こうかしら」
――――――――――――
戦闘の喧騒が遠くに聞こえる。悲鳴やら衝撃音やらがこだまになって届く。
あの馬鹿でかいゴーレム以外は、何が起きているかなんて想像するしかない。
「……バグ、だよなあ」
アキヒトは独りでにつぶやく。
周囲にはエネミーも、プレイヤーも誰もいない。
――ゲーム開始時、プレイヤーはランダムに火/風の世界に転送される。
……はずであるのだが。
僕は今、土の世界の洞窟の前にいる。
「……バグを楽しめ、か」
まあまだ実害を被ってはいない。むしろ望んだような状況には近い。
このエリアには、もし一人になるのであれば来ようとは思っていた。
このまま進むべきか。
合流は難しそうだし、ましてはあんな争いの多い場所に戻りたくもない。
「……二人には悪いけど、このままソロ攻略と行こうかな」