Ch3.3 デコーダー(3)
「うげー。眠いぃ」
山林から時折洩れる朝焼けの光がまぶしい。
「おいおい文句たれるな。男だろう?」
「……ずいぶんと平成マインドだね。僕がノンバイナリーになったらどうすんだよ」
「ガハハ。考え方が違えよ。男だからこそ、女性の強さに追いつくためにも頑張んねえといけねえって話だ」
ああ言えばこう言う。
本当にそんなこと思って……るんだな。
「…………ふぅ」
足を止め、息をつく。
ずいぶんと高い所まで登ったものだ。
カルフォルニアの山も登ると日本とあまり変わらないが、どちらかと言えば木々の緑よりも岩肌の黄土色が目立つ。
見渡せる風景はひどく広く、美しい。
大地が雄々しく木々や山々、そして川のせせらぎを支えている。
大空が広大で、雲の端から端まで見える。
その澄んだ景色は僕の心を澄み渡らせるかのようだ。
ここから見える景色はとても豊かで、平和だ。
「おーい。はぐれるぞ。こういうのは一緒に行くのが楽しいんだぞ」
「……はいはーい」
まだまだ体力は親父の方が上のようだ。まったく。元気で頼もしいね。
――――
「この世界は広い。情報にあふれてる。楽しみ方なんて無限にある……なんてオレは信じてるがな」
頂上に着いた。
正確には頂上近くの湖畔についた。
そう、なんと山の上に湖が広がっているのだ。
釣りに興じている人も何人かいる。
「お前はどうだ。アキヒト。人生、楽しんでるか」
前も聞いたなそのセリフ。まったく。
どれだけ僕の人生を楽しませたいんだ。
「……ハァ、楽しんで、るよ! おかげさま、でね」
3時間程度は登っただろうか。ツカレタハラヘッタ。
「そうか。ならいいんだ。今回のイベントについてはオレはノータッチだからな。いつもの楽しみ方とは違うだろうよ」
「……もし担当してても、毎回違う楽しみ方しか提供しないじゃないか」
突然のI.F.ワールドの話題。話がポンポン変わるのはよくあることなので、その返答にも慣れたものだ。
……今回の舞台に違和感を感じた原因はそれか。
「ノータッチって。なにクビになったの?」
「いや逆だな。昇進した。もう所長より立場はだいぶ上だ」
あらま。そんな上下関係の変化があったとは。
「だから所長が今回は現場主任。やる気がそれで大分マシマシなんだよ」
あー。なるほど。結果を出して見返してやりたいって気持ちがいっぱいなのか。
「逸る気持ちが強めで、今回は多分バグが多めだろうな。だから、そのバグを楽しめ」
まあそんくらいだな俺からのアドバイスは、と話を打ち切る親父。
まったく。この人は。
目が良すぎる。
そんなに理解力があって、人生疲れないのだろうか。
「……あと、そうだ。最近亡命しようかと思ってるんだ。オマエも来るか?」
うおい。なんだその話題は。
突飛すぎる。
さすがに冗談か?
「……今は遠慮しとくよ」
「そうか。ガハハ。……山登り楽しかったな」