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八話

 ガルーシアの夜は賑やかだ。


 とはいっても、街に明かりが溢れているわけでも、人々が屋台などを出しているわけでもない。


 空を飛ぶ魔物は夜の空を自由に飛び回り、地上では様々な姿をした魔物達がまるで競争するように駆け回る。


 そんな中、いつもであれば大空へと飛び出すユインは小さく息を吐くと、一人の部下を呼び、鋭い視線を向けた。


「ロロ。レリアの情報をリュディガー王国へと向かい集めてこい。あと王太子であるコンラッドという男についても調べてこい」


 ロロと呼ばれたのは、ユインの部下であり、隣国の情報を入手するためにかけまわる一人であった。


「リュディガー王国ですか。了解いたしました。すぐに情報収集し、レリア様についてお調べいたします」


「あぁ。行け」


「御意」


 ロロは返事をした瞬間に姿を消した。


 魔物とは巨大な体を持つものばかりが目立つが、そうでないものの数の方が合っという敵に多い。


 ユインは大きくため息をもう一度つくと、先ほどまでレリアが座っていた席へと視線を向けた。


「……可愛らしい人だ。……だが、ここへ送られてきたという事は何かがあったのだろう」


 本当であればレリアの口から聞く方が良いのだろう。だからこそ、レリアの口からきくのをユインは待っている。


 ただ、情報に関しては事前に入手するつもりであった。


 魔物にとって花嫁とは特別な存在である。


 よく番という言葉が使われるが、花嫁とはそんな存在に近い。


 一目見た時から、ユインの心はレリアに惹かれていた。


 こんなことがあるのかとユインは思うが、精霊が導いてくれたともいえる。


 レリアはまだ魔物の愛の重さや執着心について知らず、純粋無垢な瞳で、ユインが言った言葉をすぐに信じてしまう。


 ユインは間違ったことは教えてはいない。


 ただ、レリアが可愛らしくて。そんなレリアの出来るだけ傍にいたいとユインは思い、日々過ごしていた。


 だからレリアが違いのではという不思議そうな顔をした時には、普通だと答える。


 嘘はついていない。


 結婚する者同士の距離感など、それぞれである。


 ユインは自分を受け入れて可愛らしく微笑んでくれるレリアにどんどんと惹かれていった。


 それはこれまで感じたことない程の幸福感をユインに与えた。


 一緒にいるだけで幸せな気持ちになる存在に出会えるなんて、思ってもみなかったのだ。


 そしてその一方で、初めて嫉妬心なるものも芽生えた


 王太子コンラッド。


 リュディガー王国の第一王子であり、名前だけは知っている。


「くそっ……」


 実のところ、最近までガルーシアは王位継承について問題が起こっていたこともありリュディガー王国にまで手が回らなかったのである。


 情報収集だけでも手をまわしておけばよかったとユインは後悔が隠せない。



 レリアはこれまでそのように生きてきたのだろうか。


 レリアにガルーシアのことを学んでもらうために呼んだ教師達は口をそろえてレリアは優秀だと言った。


 だがしかし、それと同時に、恐らくこれまでたくさんの勉強を強いられすぎてきたのだろうという事も話していた。


 ルルから得た報告でもあったのだが、レリアは睡眠時間を削る癖がある。


 睡眠時間を削り、次の日には前日学んだことを完璧に仕上げる。そう教え込まれてきたそうなのだ。


 そればかりではない。


 ある時、レリアが簡単な問題を間違えたことがあった。


 ユインとしてはそういうこともあるだろうという気持ちだったけれど、その瞬間、レリアは顔を真っ青に染めると震えながら立ち上がり、後ろを向いたのだ。


 その行為の意味が、最初分からなかった。


 しかし、スカートのすその隙間から見えた、脹脛の傷を見つけた瞬間、血の気が引いた。


 今、この瞬間、レリアは問題を間違えたことによって体罰されると覚悟して立ち上がったのだということに、気が付き、ユインは驚き何も言えなかった。


「レリア様。間違えることはよくある事でございます。どうぞお座りください」


 そう教師が告げた瞬間、ほっとしたようにレリアが微笑んだ姿を見て、ユインは怒りを覚えた。


 それはもちろんレリアにではない。


 ユインは自分の執務室で一緒に過ごすようにしていて良かったと心から思った。


 元々は逃げる花嫁がいることから、心を通わせるまでは出来るだけ一緒にいた方が良いとの教えに従って行動を共にするようにしていた。


 そうすることによってレリアの様々な一面を知ることが出来て良かった。


 そして、それと共に、レリアがどのようにこれまで生きてきたのかが気になるようになった。


「はぁぁぁ。自分がこんなにも嫉妬深い男になるとは、思いもしなかった」


 ユインはそう呟く。


 ユインもレリアも、お互いに初恋同士であるという事には、まだ気が付いていない。


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