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七話

 王城の中は、人間の国の王城とは本当に違った。


 主に大きさが全く違う。


 必ずと言っていい程に広く取られている空間があり、何故なのかを尋ねると、巨大な魔物もいるので、その為にかなり大きめに作っているのだという。


 私はそういうことかと納得しながら進んでいくが、ふとある事に気がついた。


「あの、王城内で働く人はいないのですか?」


「あー。ここは、時期国王が住まう区域で、王城内でも東の位置にある。現在はレリアを驚かせてはいけないから、姿を見せないようにしているのだ。ちなみに中央に現国王陛下がいて、正式にレリアとの婚姻がなされたら、退位され、俺が国王となるのだ」


「そうなのですねぇ」


 そう答えながら、ふと気づく。


「えっと、つまり、私は王妃と……もしかしてなります?」


「あぁ。そうだな」


 私は静かに、また勉強漬けの日々が始まるのかぁと思ったのであった。


 ただ、コンラッドの婚約者だった時は、王子妃にいずれなるのだからと毎日勉強をさせられていたが、今の気持ちはその時とは違った。


 ユイン様の隣に堂々と立てるように、しっかりと学ぼう。


 私はそう考えている自分の心持の変化にくすりと笑った。


 その後、ユイン様は庭や王城内にある施設などについても案内しながら教えてくださった。


 優しいなぁと思いながら、私は、この国に来れて良かったなと思ったのであった。



 それから私はユイン様の執務室で基本的には勉強をするので、毎日ユイン様と顔を合わせるようになった。


 ユイン様は優しい人で、笑うとふにゃっと微笑む姿がとても可愛らしい人であった。


 リュディガー王国にいた時には、苦痛だった勉強であったが、ガルーシアで学ぶことは本当に楽しかった。


 知らなかったことを知れることはこんなにも楽しいのだと、私はこれまでの勉強法が悪かったのだなと悟った。


 以前までは必死に出された課題をこなし、あまたの図書館の資料の中から答えを探すこともあった。


 時間はかかる上に、宿題により睡眠時間は奪われ体調も損なっていた。


 けれどここでの学びは全く違う。


 私の教師についてくださった先生方は、とても優しく、丁寧な方ばかりであり、リュディガー王国のように体罰をする先生もいなかったのでほっと胸をなでおろした。


 鞭で打たれるのは痛いのでずっと嫌だったのだ。


 それがないというだけでも、勉強に対する意欲は増した。


 勉強の時間が終わり一段落が付いた時、ルルにお茶を入れてもらうタイミングでユイン様も一緒に休憩を取ると言って、私の横へと腰掛けた。


「レリア嬢は勉強するのに慣れているようだが、元々勉強家だったのか?」


 ある日の事、ユイン様にそう尋ねられ、私は首を横に振った。


「こうは言っては何ですが、勉強は苦手だったのです。ただ、元々私は王太子の婚約者だったこともあって、勉強せざるを得ないといいますか」


「ん?」


「え?」


 私はそう告げてから、あぁそういえば話をしていなかったと思い、慌てて言った。


「えっと、私は元々リュディガー王国では王太子であるコンラッド様の婚約者として勉強をしていたのです。ただ、コンラッド様には愛する乙女が出来たようでして……」


 婚約破棄されてそのままここへ送られた、とは、やはり言いにくくて、私は口を閉じる。


 ユイン様はどうしてこの国に花嫁としてやってくることになったのか、あえて聞いてこないような様子があった。


 恐らくこれまで来た花嫁達も様々な理由があったからこそ、聞かないようになったのかななんてことを、私は想像していた。


「……話したくないのであればはなさなくてよい」


「はい……」


 しばらくの間無言の時間がが慣れていく。


 紅茶を一口飲むと、ユイン様が私の口元にクッキーを差し出して食える。


 この数日ですでにユイン様から食べさせてもらうのにも慣れてきてしまっているな、なんて思いながら、私はサクッと、一口かじった。


 リュディガー王国とは違い、サクッとしたクッキーで、甘さの中にも塩気を感じる不思議なクッキーであった。


 それを食べながら、私は呑みこむと口を開いた。


「ユイン様……あの、王族は一夫多妻制ということではないですよね?」


「ん? あぁ。もちろんだ。我が国では一夫一妻制だ。それはリュディガー王国もであろう?」


「はい……そう、です」


 私は苦笑を浮かべた。


 一夫一妻制と言いながらも、貴族の中には外で女性を囲う者が多い。


 浮気は貴族のたしなみなんて言葉もあるくらいだ。けれど私は、大切な相手は一人でいいと考えている。


 貴族の令嬢として、政略結婚は当たり前。


 結婚した相手の元でそこに課せられた日常を過ごすことが当たり前なのだ。


 ユイン様の花嫁に決まったからには、私はユイン様を大切にしていきたい。


「リュディガー王国も色々あるようだな。まぁいい。さぁ、そんな暗い顔はするな。この国に来たからには、そなたは幸せになって笑顔で毎日過ごすのだ」


「え?」


 ユイン様は私の頭を優しく撫でると、ぎゅっと抱きしめた。


 少し早いユイン様の心臓の音が聞こえて、私は自分もドキドキとしてくるのを感じた。


 温かで、安心する。


 出会ってまだそんなに経っていないというのに、どうしてこんなにユイン様といると安心して幸せな気持ちになるのだろうか。


 コンラッド様と一緒にいた頃には感じたことのない自分の中に芽生えた感情に、私は胸を高鳴らせたのであった。


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