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十話

 ガルーシアの店も大きいのだろうかと思っていたけれど、店自体は普通のサイズであった。


 ユイン様に尋ねると、大きいとそれはそれで掃除などが不便だからと聞かされて、合理的だなと思った。


 並んでいる品物はやはりリュディガー王国とは違った。


 面白いのが、宝石屋には巨大な指輪や宝石や、大きなただの石なども売られていた。


 買う人は少ないようだけれど、一定の需要はあるそうだ。


「ユイン様。あれなんですか? 食べてみたいです」


 おいしそうな香ばしい香りがして、私は屋台の店を指さすと、ユイン様は頭を掻いて珍しく首を横に振った。


「あれは……レリア嬢が食べれるかは……わからんぞ」


「え? 食べたらまずい物ですか?」


「いや、まずいわけではないのだが、うーむ。まぁ近くで見てみればわかるか」


 そう言って私とユイン様は店の方へと歩み寄った。


 この何とも言えない食欲をそそる香ばしい匂いはなんだろうかと思って店の中をのぞいて私はぎょっとした。


 焼かれていたのはヤモリの串焼きであった。


 「ひょえっ」


 思わず変な声が口からこぼれると、ユイン様は一本それを買って私の前へと差し出した。


「食べれなかったら俺が食べる。かじってみるか?」


 私はおいしそうな香りがするのに見た目の衝撃は半端なくて、しばらくそれを見たまま固まってしまった。


「やはり、俺が食べるか」


 ユイン様がそう言ってかぶりつこうとしたけれど、私は慌てて言った。


「食べます!」


「え? いや、無理する必要はないのだぞ」


「郷に入っては郷に従えと言います。見た目で食べないのは損です。食べます!」


「っふ。そうか」


 ユイン様は楽しそうに私の前へとヤモリの串焼きを差し出した。


 私は恐る恐る、少しだけまずは食べてみた。


 触感は弾力があり、皮は香ばしく焼けていた。


 そして、ふわりと炭で焼いた良い香りがして、その後ジューシーな味わいが口に広がる。


「おいしい」


「ふふっ。そなたは本当にすごいな。ふははっ!」


 ユイン様はそう楽しそうに声をあげた。


 私はもう一口と思い口を開けてかじりつく。街中でこのように食べ物を食べたのも初めての経験である。


 美味しかった。


 こんな風に外でデートしたことも、こうやって楽しく食事をしたのも初めてのことばかりである。


 ガルーシアへ来てから楽しいことがいっぱいだ。


 私は幸せを感じながら、その後もユイン様に案内されて街を見て回った。


 そんなときである。


 ユイン様が突然近くにいた騎士に呼ばれて私から少しだけ離れた。


 なんだろうかと思っていると、小声で話がなされ、ユイン様の表情が途端に厳しい物へと変わった。


 私は何かあったのだろうなと思いながら、待っていた場所のすぐ横で、地面で絵描きが絵を売っているのを見て、

そちらへと視線を移した。


 綺麗な絵だななんて思いながら一歩歩みより、ちらりと見ていると、なんだか懐かしい景色の絵があった。


 リュディガー王国の絵だろうか。


 王城の絵が描かれており、誰が描いたのだろうかと思った時であった。


「レリア嬢! 触るな!」


「え?」


 私は慌てて手を引いたけれど、わずかに絵具が手に飛んでそして付着した。


 飛びついてくる絵具なんて聞いたことがない。


 ユイン様が私のことを腕の中に抱き込み、そして絵を売っていたフードを被った男はユイン様と距離を取るように飛びのいた。


「これはこれは、時期国王陛下」


「何故お前がここにいる!」


 ユイン様の声が今まで聞いたことのない程低く、それでいて冷たい響きがした。


 私は一体この人は誰なのだろうかと思っていると、男はフードを取って笑顔を見せた。


 美しい紅の髪と瞳を持った男性は、ユイン様にどことなく似ているような気がした。


「ははっ! 僕が北の大地で大人しくしているとでも思っていたのですか?」


 一体この人は誰なのだろうかと思っていると、その男は一本のバラの花を私に向かって差し出しながら言った。


「お初にお目にかかります花嫁様。僕はゲリル。この国の時期国王になり損ねた男です。だがおかしいのですよ。そんななりそこないなどよりも絶対に僕の方が資格があるはずなのに」


 なりそこない?


 資格?


 意味が分からなかったけれど、ユイン様が警戒していることから危ないのかもしれない。


「ふざけたことを。お前は負けたそれが事実だ」


「僕は負けてなどいない! お前のような異物に負けるわけがない!」


 すでに私たちの警護にあたっていた騎士達に取り囲まれている。逃げる隙はなく、追い詰められている状況なのにもかかわらず、ゲリルは余裕の表情を浮かべている。


「はぁ。お前がそこまで往生際が悪いとは思わなかったぞ」


「僕は貴方が自分が王に相応しいなんて考えていることに驚きですね。出来損ないの分際で。花嫁様はもうこいつの魔物の姿を見ましたか? ふふふ。滑稽だったでしょう?」


 滑稽?


 一体何の話なのだろうかと思っていると、ユイン様が少し慌てたように言った。


「黙っていろ」


「あぁ~。やっぱり自分でも出来損ないだと分かっているのですねぇ~」


「違う。ただ今はまだ」


「なら、さっさと幻滅させてあげましょう」


「っ⁉ お前! いいかげんにしろ。捕らえろ」


 騎士達に命令を下した次の瞬間、ゲリルを守るように一人の女性が突然現れた。


 私はその女性にどこか既視感を覚え、一体誰だろうかと思うけれど、仮面で顔を隠し、フードを被っている為に誰なのかは分からなかった。


 けれど、どうやらユイン様は知っているようで名前を呼んだ。


「……メリー? まさか、メリーか⁉」


 メリー。どこかで聞き覚えのある名前である。


 私は思い出せそうで思い出せずにもやもやとするけれど、その女性の口元が楽しそうに弧を描く。


「ユイン様。お久しゅうございます」


「まさか……」


 ユイン様が名前を呼んだことも、呼ばれたことも、なんだかそれだけで胸の中がずくりと嫌な気持ちが生まれる。


 私は自分はなんと心の狭い女のだろうかと思うけれど、不安に思ってしまうのだ。


「ふふっ。感動の元恋人同士の再会だなぁ~。花嫁様。彼らは元々は恋人同士。ですが貴方が現れたことによって別

れるしかなかったのですよ」


 胸が締め付けられるようであった。


 ユイン様には恋人がいたのか。


 けれど、私が現れたために別れてしまったのか。


 嘘だと言ってほしい。


 私はユイン様へと視線を向けるけれど、ユイン様は私のことを守るようにして庇い、こちらを見てはくれない。


「ユイン様……」


 名前を呼ぶと、私を守る手に力がわずかに入った。


「ゲリル。ふざけたことを言うのも大概にしろ。メリー。つまりお前はゲリル側についたということだな」


「うふふっ。そうかもしれないし、そうでないかもしれませんわ」


 メリーは楽し気に笑った。


「私は私の目的の為に行動しているだけですわ。さぁゲリル様。こんなところで遊んでいてはだめですよ。花嫁様の連れ去りには失敗したのですから、一度引きましょう」


「あぁ~本当に、あと少しだったのに残念です。メリーだが、せっかくだから花嫁様に見せてあげたいんですよ。花嫁様! 欲見ていてくださいね」


「ゲリル!」


 突然熱風が吹き付け、瞼を閉じてしまった。そして目を開いた時、先ほどまでゲリルのいた場所に、巨大な赤い竜がいた。


 その体はきらめく鱗でおおわれており、咆哮を天にむって上げた。


「竜」


 私がそう呟くと、ユイン様は私のことを抱きしめて、それから眉間にしわを寄せると言った。


「……頼むから、嫌わないでくれ」


「え?」


 一体どういう意味だろうかと思っていた次の瞬間、冷たい風が吹き、私の体はいつの間にかにもふもふのふわふわの毛に包み込まれていた。


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