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第4話 ロリポップ【loli phaba】

 砂糖を吐く日々です。

 毎日がグラブジャムン(シロップ漬ドーナツ)

 口から砂糖を吐き、全身の穴という穴からシロップを垂れ流しそうです。

 いえ、もう少し出ているような気がします。甘い。ひたすらに甘い。ちょう甘い。


「愛してるよ、おれのかわいいメアリー」


 黒髪黒目がスタンダードなこの国では珍しい、白銀の髪に、紅玉の瞳。

 クイン皇子殿下は、蕩け切っただらしのない表情で、それでも美しい笑みを浮かべています。

 今は亡き、滅び去った小さな国。シンクフォイル公国に多く見られた銀髪紅眼、その特徴を持ちながら。


 数多の国を呑み込み、醜く肥え太ったこの皇国で、五番目の皇子は今日も美しく微笑んでいるのです。



 ◆◇◆



「ああ、本当に、君は(クイン)と婚約したんだね」


 それは、ある夜会での一幕。

 

 一時、社交会から締め出された私ではありますが、クイン皇子殿下との婚約がおおやけにされた瞬間から、以前の半分程度のお手紙や、招待状を受け取るようになりました。


 クイン皇子殿下がいかに陽の当たらない第五皇子であろうとも、皇子であることに変わりはありません。その婚約者であり、宰相を父に持つ公爵令嬢の私ですから、コネクションに加える価値は十二分にあると見做されたのでしょう。

 まあ、大変に分かりやすい掌返し。ですが、それが社交界というものです。

 いかに自分の価値を釣り上げることができるか、その価値を示すことができるか。

 それが、全てです。


 再び自分の価値を釣り上げ示すことができた私は、ヒエラルキーの上層に位置する選ばれし者として、招待された夜会へとやってきました。

 私をエスコートするのはもちろん、婚約者のクイン皇子殿下。

 周囲からの羨望、嫉妬、殺意を浴びて、皇太子殿下からこうしてお言葉を賜ることすらできるのです。


 そう、婚約者ですからね。クイン皇子殿下の。


 皇太子殿下から見れば、弟君の婚約者です。言葉の一つも掛けたくなるのかもしれません。

 元婚約者というのも手伝ってでしょうか。多少気安い間柄ではあるのかもしれませんね。

 ただね、元婚約者ではあるものの、言うても元です。元。


「心配してたんだ。あんな風に関係を終えてしまって」


 私はそういう心配は特に欲しておりませんでした。

 むしろ今この瞬間、皇太子殿下のその言葉によって、身の危険を感じております。


 皇太子殿下のお隣、接着剤か何かでも塗布されたんですか? っていうぐらい一部の隙も無く密着して立っておられる田舎の貧乏貴族のご令嬢、現在の婚約者であられるそちらの方、般若か夜叉かというお顔になってますよ。大丈夫ですか。


「誰よりも優しい君だから、誰よりも幸せになって欲しいんだ」


 じゃあなんで振ったんです?

 って、白けた思考で思わず口から出そうになりました。


 いえ、そんなことよりもですね。


 見えてます?

 私の隣の弟君(クイン皇子殿下)。ずっと隣に立ってるんですけど。

 なんで無視するんです?

 一言ぐらいかけてあげて貰っていいです?


 分かりますよ。

 弟とはいえ、妾腹。第五皇子に価値など見出していないのでしょう。

 皇太子殿下のそういうところです。

 決して馬鹿なわけではないのに、空気を読めない、読まないところです。


 ヤバいです。

 空気冷え過ぎて風邪引きそうなんですけど。

 正面の田舎娘も大概ですが、むしろ隣から溢れ出る冷気がヤバい。冷気っていうか、敵意? いえ、これ殺意ですね。紛れもない殺意です。これ。


 もちろん、私の隣に立つのはクイン皇子殿下ですよ。

 今まで敵意とも殺意とも無縁そうな、平和面しか見せて来なかった甘々溺愛皇子です。

 白銀の髪と、紅玉の瞳を持つ、奇跡のように美しいビスクドール。日陰の第五皇子。


 そっと伺い見れば、仰ぐその顔は美しく微笑んでいます。

 けれど、その紅玉の瞳に宿るのは燃えるような怒り。憤怒とも言える程に燃え上がる、憎しみ。

 隠しきれない程の憎悪。


 そして、


「メアリー」


 囁くように私を呼ぶのは、皇太子殿下。


 なんですか。

 他人のものになったら急に惜しくなりましたか。

 止めてください。心の底から、止めて欲しいです。


 生まれながらにして、全てを与えられた者、その無自覚な傲慢。

 それが、持たざる者を傷付けるのですよ。


「――もし、弟に我慢できなかったら、声を掛けて」


 ファッキン(fuck you)

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