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追う者1

「ようやくお目覚めね。黒の姫君」


 暗闇のなか、女はふっとくちびるの片端を引き上げた。


「せいぜい王に気を取られていらっしゃい。その魂は、必ずやこの私がいただくわ」


「アリシアさま」


 名を呼ばれ、女は自らの前にひざまずく者たちに視線をやった。その青い瞳が映す光は氷のように冷たい。


「ええ。ようやく時が来たわ。行きなさい」


 跪いていた者たちは一礼すると、静かに女の前から姿を消した。

 アリシアは胸に手をおき、ほうと息をつく。

 伏せられたまぶたの先で、睫毛がかすかに震えていた。


「もう少し……。もう少しよ。私が必ずあなたを助けるわ」


 それは彼女にとって、幼い頃からの誓い。

 かけがえのない存在への、変わらぬ想い。


「あなたの命を危険にさらす者は、赦さない」


 胸においた手をぎゅっと握り込み、アリシアはまぶたを押し上げる。


「私が消して差し上げてよ。あんな人間の小娘など」


 ──そしてあなたは、いつか私のところへ帰ってくるの。


 胸の内でひそかに呟き、アリシアは妖艶に微笑んだ。


    ▲  ▲  ▲


 シエルは内心で舌打ちした。

 対峙していたマーヤがわずかに右足を引いた。

 カチャリと、玄関の鍵が開けられる音が、異様なほど大きく響く。


「シエル? いる?」


 何の警戒心もない無防備な声。

 玄関により近いのは、和室のすぐ横に立っているマーヤのほうだった。

 マーヤが攻撃した場合、リビングへ入ってこようとした者は、それを正面から受けることになる。

 無防備な声の持ち主がリビングに姿を見せた瞬間、マーヤの手が動いた。


「桜っ、伏せろ!」


 マーヤが髪に気を通し、鋭い針と化したものが無数に空を切る。


「えっ、なに!?」


 シエルは床を蹴り、桜子のもとへ急ぐが、それでも針のほうが速い。間に合わない。

 しかし、桜子はこれまでにも何度か魔族に襲われたことがあるせいか、反応が早かった。

 状況を理解するよりも先に、シエルの言葉に反応して身をかがめたため、針が桜子を串刺しにすることはなかった。


 だが、間髪入れずに、今度はマーヤの鋭い爪が直接心臓をえぐりだそうと襲いかかる。

 シエルは開け放してある和室を抜けてマーヤの下に潜り込むと同時に当て身を喰らわせ、そのまま桜子を抱えて、すぐさまその場を飛びのいた。


「バカ女が。何しに来た」


「ちょ……、なに。いきなり何がどうなってるのよ!?」


「質問しているのは俺だ。答える余裕がないなら黙っていろ」


 ふんと、桜子は鼻を鳴らした。

 出し抜けに命を奪われかけた状況で、しかも、同族さえも恐れて近寄らない己に対して一歩も引かない豪胆な人間に、シエルは呆れて肩で息をついた。まったくもって怖いもの知らずの、とんだじゃじゃ馬娘だ。


「なによ。相変わらずの俺様っぷりねっ。雪人がヘンなの。眠ってしまって全然起きないのよ。それで、あなたのところに来たの。どう。これでいい?」


「おまえ、そんなことでわざわざ来たのか」


「そんなことじゃないわ。私には大事なことよ! 雪人が眠るなんておかしいじゃないの!」


 盛大に噛みついてくる桜子に怪我がないのを見てとると、シエルは視線をマーヤに戻した。


「用件は分かった。だが、タイミングが悪過ぎだ」


 すでにマーヤは体勢を立て直し、次の攻撃を仕掛けてこようとしていた。

 少し強く急所に入れたため、肋骨が数本は折れたはずだが、それももう治癒しているにちがいない。


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