月光下の微笑2
(なにが、何なんだ?)
いきなりひとり取り残されてしまった昌輝は、わけがわからずに、鈴音が呑み込まれた人だかりの先を呆然と眺めることしかできなかった。
轢かれそうだったから助けたはずなのに、この展開は何なのか。
いくら考えても、昌輝には理解できなかった。
「あらら、こいつはまた派手にやったなぁ」
「え……?」
少しずつ崩れていく野次馬の輪の中から顔をしかめて歩み寄ってくるのは、昌輝と同じ制服を着た少年だった。
「ゆきと……」
「おいおい、そんな情けない声出してくれるなよ。足、平気か? とにかく場所移したほうがいいぞ。往来の邪魔だからな」
ほらと、差し伸べてくる友人の手をとり、昌輝はようやく立ち上がることを思い出す。
同時に、ここがまだ昌輝の通う高校の近くであることも思い出した。
いったい雪人はどこから見ていたのだろう。他にも、見ていた生徒たちはいるのだろうか。
ふいに不安をおぼえ、昌輝はあたりを見まわした。
土曜日で下校時間を大きく過ぎているためか、幸いにも、そこに昌輝と同じ制服を着ている人間はいなかった。
「ちょっとここで待ってろ」
昌輝を歩道の隅まで引っ張っていくと、そう言って、雪人は運転手のそばへ戻っていった。
昂然と運転手の男性に向き合い、話をしている雪人の後ろ姿をながめながら、昌輝は鈴音のことを考えていた。
深田鈴音といえば、クラスの中でもとにかく目立たない少女だった。
いつもひとりでいて、自分からは人に話しかけることがない。かといって、とくに暗いイメージがついているわけでもなく、どちらかといえば暗いというより冷たい印象が強い。
ただ、今日の彼女が学校でどんな様子だったかは、いくら記憶をたどっても、まったく思い出すことができなかった。