87:レイドバトルについて-1
「突然すみません。オニオンさん」
「失礼します。オニオン様」
「別に構わねえよ。こっちとしても利益がある事だしな。ハリ、ノノの嬢ちゃん」
俺たちがオニオンさんに連絡を取ると、オニオンさんは直ぐに時間と場所を取ってくれた。
と言う訳で、俺たちはオニオンさんの馴染のお店……荒くれ者が集っていそうな内装の居酒屋にやってきていた。
ちなみに店の主人はアンドロイドの方で、今は時間が昼時なのもあってか、客は俺、ノノさん、オニオンさんの他には数人しかいない。
「ぷはぁ。さて、質問はレイドバトルについてだったな」
「はい、具体的にはレイドバトルでの立ち回りについてですね。どう動けばいいのか、まるで分からないので」
「あ、このぶどうジュース美味しいですね」
もう一つちなみにだが、オニオンさんはビールらしき物をジョッキで飲んでいるが、俺とノノさんはアルコール分の入っていないれっきとしたぶどうジュースである。
流石に質問する側が酒を飲むわけにはいかないのだ。
「そうだなぁ……規模、地形、相手、それぞれの数なんかで色々と変わってくるんだが……今回の場合だと、とりあえずはコロシアムに転送されたら直ぐに味方の闘士たちと自分の実力を比較する事だな」
「比較ですか」
「ああ。あくまでも俺の個人的な経験と感覚に基づく話だが、周囲の闘士の……だいたい5割から4割くらいが自分より強いと感じるのなら、出てくる敵の強さは自分よりも数段上。少なくとも正面切って戦えるような相手じゃないし、編成の時点で戦力としてはそこまで期待されてないな」
「なるほど……」
さて、レイドバトルについてだ。
どうやら、周りの闘士の実力から、戦う相手の実力はだいたい読み取れるらしい。
で、感じ取れる範囲でも半分近い味方が自分より強いと感じるなら、強さを隠している人物と実力が離れすぎて強さを感じ取れない人物などが居る可能性も鑑みて、正面切って戦う事よりも、後方でのサポートのような、とにかく人数が必要な部分で働く事を求められていると考える事が出来るようだ。
「あの、オニオン様。後方でのサポートと言うのはどういう事でしょうか?」
「そうだな。これもまた相手や状況次第になるんだが、レイドバトルってのは短いものでも数時間、多少長引けば数日、本当に酷い奴だと十日以上戦い続けるようなものがあるんだ。で、数時間ならともかく、日を跨ぐような長さの戦いになると、色々と後方支援が必要になってくるんだよ」
「後方支援……あ、食事の準備とか、眠る場所とか、と言う事でしょうか」
「そう言うのもあるし、装備の補充、物資の輸送なんかもあるな。環境次第じゃ、特別な薬を現地で調合するとかもあるし……役目は幾らでもあるな」
なるほど。
そう言う話ならば、確かに後方でのサポートは必須そうだ。
今回のレイドバトルは闘士が一万人超、それだけの人数となれば、相手がよほど規格外の大きさでもなければ、全員が一度に戦えるわけがない。
そうなれば、戦っていない闘士は休憩をする事になり、その間に食事、睡眠、治療、補給と言ったことをするのも当然の事。
だが、これらを前線で戦う闘士が自分で全部やっているような暇までは無いと言うか、自分でやるなど無駄にもほどがあるので、専門化による効率を考えるまでもなく、誰かが自分の役目としてやった方がいい。
戦いが長期化すればなおの事だ。
「ではオニオンさん。逆に自分より弱いと感じる闘士しか周りにいなかった場合は?」
「その場合は単純だ。自分の持ち味を生かせと我らが主が言っているのと同じだからな、自分の得意分野で存分に活躍すればいい」
オニオンさん曰く、前線で働けと言うのは、ある意味楽であるらしい。
敵が強大であるかもしれないが、やる事自体は普段の決闘と変わりないからだ。
可能な限り周囲の味方共々生き残れるように頑張りつつも、自分が出来る事をやるだけでいい。
うん、確かに楽かもしれない。
「むしろ面倒くさいのは、周りが強くも弱くもない時だな。こうなると、相手の動きや状況を読んで、適切に動く事が求められる。前が欠けているならそこを埋めないといけねえし、後ろがヤバいならそっちの支援に向かわないといけない。指示役、伝令役の次ぐらいには忙しいんじゃないか」
「な、なるほど……」
「それは確かに大変そうですね……」
「まあ、今のハリとノノの嬢ちゃんがそこに入れられる事はまずないと思うけどな」
そんなわけで、一番面倒なのは、自分より強い相手も弱い相手も疎らであり、実力的に真ん中ぐらいである場合。
この場合、高度な判断力、知識、技術、その他諸々求められるそうだ。
「後は……そうだな。指示役がほぼ間違いなく居ると思うが、おかしな指示には従わなくていいぞ」
「いいんですか?」
「いいに決まってる。前線が理解できるように、納得できるように指示を出すのも、指示役と伝令役の仕事だ。おかしな指示って事はその辺が出来ていない指示と言う事でもあるからな。そんな指示に従っても、碌な事にならねぇ」
「確かにそうかもしれませんね」
「だからこそ、指示に従わない奴が出てきても無理に引き止めようとはするな。一人二人が勝手な行動を取った程度で崩壊する戦線なら、そもそもどうしようもないし、従わない奴と揉めて時間を浪費する方が、よほど不利益になるからな」
「あ、はい」
指示については理解できる、納得できるものだけに従えばいい、と。
うん、覚えておこう。
余談だが、オニオンさんが裏切り行為の類を考えていないのは、あらゆる意味でする意味がないからである。
「それと……そうだな。決闘中でも使える通信手段は用意しておけ。一万人規模となると、一緒に居たくても居られない状況になるかもしれないからな」
「分かりました。そっちは後で手に入れておきます」
「簡単には無くさない、壊れないものにした方がいいですよね?」
「ああ、その方がいいぞ」
後は通信手段の確保か。
確かに必要かもしれない。
一万人超も一堂に会して、それぞれが好きに動いたら、逸れる事は普通にありえそうだ。
今後の決闘でもあって不便なものではないし、ちゃんとしたものを購入しておこう。
「俺から教えられるのはこれくらいか。ま、一万人規模なら、勝つも負けるも、生き残れるか途中退場するかも、半分くらいは運だ。変に気負わず、祭りに参加するような気持ちでいいと思うぞ」
「分かりました。今日はありがとうございました。オニオンさん」
「ありがとうございました。オニオン様」
「おうっ。じゃ、無理せず頑張って来い」
さて、その後も必要な情報を俺たちはオニオンさんから教わった。
そうする事で、俺たちはレイドバトルについて最低限必要だと思しき情報は手に入れた。
そして、開始までの時間で準備を整え……その時を迎える事になった。




