20:基礎の訓練-1
「よう、勝利おめでとう。ハリ」
「ありがとうございます。オニオンさん」
翌日、俺の部屋の前の糸通りにオニオンさんが現れる。
とりあえず祝いの言葉には素直に礼を返す。
「で、自分に何が足りないのかは分かったか?」
「ぶっちゃけ何もかもが足りないですが、まず基礎体力が足りてないです」
「正解だ。昨日の決闘程度で息切れしてたら、この先どうしようもないぞ」
そして何が足りていないのかという言葉に対しては……うん、本当に何もかもが足りていない。
棍の扱い方だとか、魔法の扱いだとか、攻め時の見極めだとか、色々と足りていない。
けれどそれらを鍛えるよりも先に鍛えるべきは基礎体力だ。
基礎体力がないと、強化すらまともに出来ない。
「さて、そこで俺からお前たち二人に提案だ」
「提案?」
「何でしょうか?」
俺とノノさんはお互いに顔を見合わせる。
「これから十日間で鍛えられるだけ鍛えて、どれぐらい鍛えられたかを確かめる為に休養権を停止して決闘に臨む。そう言うサイクルで今後進めていくと言う提案だ」
「「……」」
十日間で鍛えて、それから決闘の日時を決めて、また十日間鍛えてと言う事だろうか。
俺としては……悪くはないと思う。
十日間鍛えれば、何かしらの成果は得られると思うし、決闘でその成果が実際にはどうであるかを確かめる事が出来れば、モチベーションの向上にも繋がる事だろう。
勿論、決闘に勝つ事が出来ればポイントは得られるので、さらなる強化、転生の準備、生活環境の向上、そしてノノさんの治療を進める事も出来るだろう。
後はそのペースで間に合うかだが……『煉獄闘技場』の一年は365日。
このペースだと多分年30回前後の決闘で、こちらの強化に伴って決闘で勝利した際に得られるポイントが増える事も併せて考えると……たぶん、大丈夫だと思う。
「俺は悪くない提案だと思う。ノノさんは?」
そこまで考えて、俺は問題ないと判断した。
「頻度そのものはちょうどいいと思います。ただ……」
「ただ?」
「ん?」
だがノノさんには気になる事があるらしい。
「その、オニオン様がハリさんを鍛えるのですよね?」
「そうなるな。俺とハリでは違う部分は色々とあるが、提案だけして後は放置なんて真似をする気はない」
「はい。でもそうなると、私はどうすればいいのでしょうか?」
ああなるほど。
俺はオニオンさんに鍛えて貰える。
けれど、オニオンさんの育成はどう考えても物理寄りと言うか、肉体系統だ。
その育成方針はノノさんの事情を考えるまでもなく、ノノさんに合わない事だろう。
「その事か。それについては一応ノノの嬢ちゃんを監督出来る人間を呼んである。ドーフェ」
「はいはい、呼ばれたわ」
オニオンさんの言葉に合わせて、一人の女性が糸通りに入ってくる。
その女性は……オニオンさんと一緒に神殿に行くときに見かけた、同じ顔をした数十人の女性の一人だった。
どうやらオニオンさんの知り合いだったらしい。
そして、俺の事も覚えているらしく、一度視線を合わせると、小さく頷く。
「私たちの名前はドーフェ・ヒトモブリ。ノノ・フローリィさんとハリ・イグサね。色々な事情から、今回は協力させてもらうわ。これからよろしく」
「私たち?」
「こういう事よ」
女性……ドーフェさんが上を向く。
俺たちも釣られて、上を向く。
すると向いた方から、ドーフェさんが三人現れて、最初から居たドーフェさんの横に並ぶ。
四人のドーフェさんは顔が瓜二つなどと言うレベルではなく、完全に一緒。
違いと言えば、服装と武器ぐらいしか差が見られない。
「えーと、オニオンさん?」
「ドーフェは一つの魂、一つの思考に対して、幾つもの体を持っている種族の人間なんだよ。この場に居るのは四人だけだが、実際にはもっと沢山いる」
「な、なるほど……」
「ほへー……」
「うんうん、良い顔をしてくれているわね。私たちの事を知った人が大概してくれる表情だけど、そう言う表情をしてくれると嬉しいわ」
どうやら此処にいる四人のドーフェさんはドーフェ・ヒトモブリと言う同一の名前を名乗っている四人ではなく、四人で一人……と言うのも少し違うか。
なんと言えばいいのか、全員自分? 群体生物?
とにかく不思議な生態をしているらしい。
「さて、オニオンがハリを担当する事から分かるように、私がノノの指導を担当させてもらうわ」
「は、はい、よろしくお願いします」
そして、そのドーフェさんがノノさんの指導をしてくれる、と。
人数が居るなら、色々な事が出来るだろうし、オニオンさんの推薦なら、俺が心配する事は無いだろう。
「まあ、実のところ私の戦闘能力の傾向としては斥候や密偵と言ったところで、正直なところ魔法は得意ではないのだけどね。けれど、これでもオニオンと同時期に闘士になった身。新人闘士の相談に乗るぐらいなら問題は無いわ」
「「……」」
なお、ドーフェさんは魔法を得意ではないと言っているが、纏っている魔法の気配からして、ノノさんよりも魔法は得意だと思う。
俺? 卵と比べてどうするというのだ。
「さて、納得してもらえたなら、これから十日間。バシバシ鍛えてやるよ。心の準備はいいか? ハリ?」
「はい、大丈夫です。オニオンさん」
「それじゃあ私たちも始めましょうか。ノノ」
「よろしくお願いします。ドーフェ様」
そうして俺とオニオンさんは装備一式を身に着けた上でこの場を後にし、ノノさんとドーフェさんはその場で何か話を始めた。
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