18:大蜥蜴との決闘-3
「はぁはぁ……げほっ、ごほっ、すぅ……はぁ……」
何度目の攻防を終えただろうか?
もう数えるのも億劫になってきている。
いやだが、実際には多分まだ30には達していない。
下手したら、20にも届いていないかもしれない。
「シュルル……」
「すぅ……ふぅ……すぅ……ふぅ……」
なのに億劫になってきているのは……。
大蜥蜴の攻撃を避け、反撃の一撃を与えると言う動きの繰り返しだから……ではない。
まだ慣れていない武器と防具の重さ、型なんて学んでいない我流の動き、大蜥蜴の反撃が当たる事によって重なっていく痛み、それらでもない。
「嫌になってくる。本当に嫌になってくる!」
単純に俺の体力がないからだ。
戦闘の素人であり戦闘のために必要な訓練など欠片もしていない点、若返ったとは言え現代社会のアルバイト程度でしかない体力、これらが合わさった結果として、俺は今現在ツラい事になっている。
棍の先が震え下がり、呼吸が荒くなり、手足は怠く、集中力も落ちてきている。
それら全ての不調が自分の体力のなさに依存していると言うのだから……本当に嫌になってくる。
「リザァ!」
「っう!」
俺は大蜥蜴の攻撃を避ける。
避けて、棍を突き出し、大蜥蜴を攻撃するが、手ごたえは浅い。
多少の衝撃は与えたが、ダメージとしてきちんと計上されるような威力にはなっていない気がする。
これもまた俺の体力のなさが原因で……ますます嫌になってくる。
「すぅ……はぁ……糞ったれが」
このまま行けば、俺と大蜥蜴の戦いは大蜥蜴の勝利に終わるだろう。
何時それが来るかは分からないが、俺が大蜥蜴の攻撃をマトモに食らい、防具を身に着けていないところに噛みつかれて、命を奪われる事になるに違いない。
それを避けるにはどうすればいいのか?
「俺は例外じゃあない。そんなのは分かってる」
きっと、ノノさんが言うところの一部例外であるならば、この状況下で魔法の力を発露させて逆転、なんてことが出来るのだろう。
だが俺はそんな例外ではない。
魔法の力は感じるが、未だに動かせないし、何かしらの作用を発揮する事など出来ないのだから。
俺は俺の手札でどうにかするしかない。
「例外じゃない俺が無理を通すなら……リスクを背負うしかない」
だが、今の俺の手札をそのまま使ったのでは、大蜥蜴にマトモなダメージを与えられない事は、これまでの戦いで分かっている。
ならば、手札をそのまま使わない。
リスクを背負って、より強力な一撃を与えられるように動くしかない。
「リザアアァァ!」
大蜥蜴が突っ込んでくる。
突っ込んできて、太ももの辺りへ噛み突こうしてくる。
「やって……」
俺はそれを後ろへとすり足で下がって避ける。
そして、避け始めると同時に、大蜥蜴に向けていた棍の先を、弧を描くように、頭の横、背中側へと勢いをつけながら移動させていく。
で、背中側に棍の先が着たタイミングで、大蜥蜴の口が俺の太ももがあった場所で閉じられた。
それを見た俺は、すり足で下げた足を少しだけ横にずらしながら前に出していく。
足を前に出して、その勢いも乗せて、棍の先をさらに加速させていく。
「やらぁ!」
「!?」
そして全力で、両手で振り抜く。
振り抜いて、棍の先端、金属による補強が為されている部位を、大蜥蜴の顎下にぶち当てて、ぶち抜く。
それはこれまでの戦闘で最も会心の一撃だった。
「うおらぁ!」
「!?」
だが、これだけでは倒せないと思った。
思ったからこそ、本能のままに足を更に動かし、振り上げた棍の先を勢いを殺さないように動かし、軌道を変え、振り下ろし、大きく踏み込んだ後先を考えない一撃を叩き込む。
大蜥蜴の表皮の鱗が割れ、肉が弾け、血が舞う。
「ドオアアァァッ!」
「ぐぎぃ!?」
手ごたえはあった。
けれど倒せるほどではなかった。
だから大蜥蜴は復帰すると同時に、俺から距離を取るべく反転。
その際に俺の脇腹を打ち据え、俺はたたらを踏まされる。
「げほっ、ごほっ、本当に火力が足りない……」
きっと服の下には青あざが広がってるに違いないだろう。
と言うか、少しリスクを取っただけでこれか。
ああ、自分の実力のなさが嫌になってくる。
「……。なんとしてでもブッ倒してやる」
だが同時に良かったと思う。
こんな実力しかない自分の背後にノノさんが居る状態でこんな情けない姿を晒していたら、ノノさんを不安にさせるどころか、危険に晒すに違いない。
だから、自分の実力のなさを、この場ではっきりと自覚出来て、本当に良かった。
「リザァ!」
「頭が弾け飛ぶまでブッ叩いてやらぁ!!」
再び大蜥蜴が突っ込んでくる。
避けるのではなく、こちらも正面から突っ込む。
突っ込んで、棍を振りかぶって、相手の勢いも自分の勢いも、全部集めて振り抜く。
大蜥蜴の重さに負けそうになるが……偶々何かが上手くハマったのか、振り抜く事が出来た。
振り抜けて、大蜥蜴はひっくり返った。
「つおらぁ!!」
「!?」
けれどやはりまだ死ぬほどではない。
だからまた追撃する。
棍を振り下ろし、鉄が仕込まれた靴で首を抑えながら目玉を蹴り、棍を突き入れる。
足の裏で大蜥蜴が必死に藻掻き、足掻き、逃れようとしているのを感じ取りながらも、何度も攻撃を仕掛けていく。
「ふんっ! ふんっ! ふんっ!!」
「ーーーーー!?」
全身の疲労もだるさも無視して大蜥蜴を叩き続ける。
叩いて、叩いて、少しずつ相手の動きが鈍っていくのを感じ取りながらも、更に叩いていく。
≪決闘に勝利しました≫
「はぁはぁ……っう……」
そうしてボロボロになった大蜥蜴が完全に動かなくなると共に、勝利を告げるアナウンスが響いた。
その事で俺の集中は途切れ、腹の痛みに悶絶しそうになる。
俺は先が真っ赤に染まっている棍で体を支えて、腹を直接かき回されているような痛みを堪える。
≪肉体の再構築後に所定の場所へと転送いたします≫
やがて俺は光に包まれて、その場から消え去った。




