15:舞台裏-1
今話は第三者視点となります。
「ぷはぁ……」
『煉獄闘技場』のとある地区が夜の時間に入って暫く経った後。
とある酒場で鬼のような姿の男性が、その巨体に見合う大きさのジョッキで酒を飲み干し、何かしらの感情ごと息を吐き出す。
男性の名前はオニオン・オガ・マスルロド・キドー。
今日、ハリ・イグサとノノ・フローリィの二人にアドバイスをしていた人物である。
「羽振りが良さそうなのに、ずいぶんと湿気た顔をしているじゃない。オニオン」
そんなオニオンに声を掛ける女性が一人。
その女性は現代的ではあるもの、この『煉獄闘技場』ではあまり見慣れない格好に、短剣を一本腰に提げている。
女性の名前はドーフェ・ヒトモブリ。
もしもこの場で彼女の顔をハリが見たら、あの時の同じ顔の女性数十人で構成された集団の女性たちと、彼女の顔が一緒である事に気が付いた事だろう。
「それはお前もだろう。ドーフェ。どう考えても、昼間のアレはお前の趣味じゃねえもんな」
「そうね。依頼者が依頼者で相応の報酬もあったから受けたけれど、事情も何も分からないし、私たちの趣味じゃないのは確かね」
オニオンとドーフェ。
実のところ、この二人は同時期に『煉獄闘技場』へとやってきて、同じ地区に住んでおり、方向性の差あれど総合的な実力も近しく、性格的にも大きな隔たりがあるわけではない、という事情から、数十年単位での友人あるいはそれ以上の関係性を持ち続けている間柄でもある。
だからこそ、昼間、ハリとオニオンが分断された際に、オニオンは無理に後を追わなかったのである。
『煉獄闘技場』のルールと合わせて、何かしらの事情があると判断したのだ。
「あ、この席座らせてもらうわね」
「おういいぞ。一人分ならおごってやってもいい」
「酒一つっと。ついでに明日まで一緒に居ましょうか? まあ、そんな気力が残っていればだけど」
「そうだな。そろそろ頃合いか」
ドーフェがオニオンの席の向かい側に座り、酒を注文し、飲み干す。
そして、オニオンもドーフェも同じ方向を向く。
「ふふふ、二人とも酷い顔ですね。心配なさらずとも、何も問題はありません。事情もちゃんと話します」
その瞬間、何処からともなく一人の女性が現れる。
女性は麦藁色の髪と黄金色の縦長の瞳孔を持つ瞳を持ち、蘇芳色の衣を身に着け、大火傷を負っている両手の片方で煙立つパイプを持ちつつ、もう片方の手で板状の機器を操作している。
「それがありがたい事で。我らが主」
「感謝します。興行主様」
「なんだか距離感を感じますね」
「「ソンナコトハゴザイマセンヨー」」
「ふむ。まあ良いでしょう」
彼女の正体は『煉獄闘技場』の主。
広大な『煉獄闘技場』の全てを一人で管理運営する神である。
「さて事情でしたね。簡単に言えば、金と実力と偶然です」
「身も蓋もねぇ……」
「まあ、そんなものだとは思っていましたけど……」
そして、当然のことながら、ハリとノノがペアとして活動するように取り計らったのはこの神であり、ノノの問題を解決するのに闘士として得た一万ポイントを要求したのもこの神である。
「もう少し詳しく話をするならば、元々はノノ・フローリィの生前の世界の神からの依頼なのです。とある邪神に呪われた少女の魂の治療をお願いしたい、と言うね」
「やっぱり神関連か……厄ネタとは思っていたが」
「ちなみに、その邪神の性質はノノ・フローリィのような少女を虐げ傷つけ使い潰す事に快楽を見出すという、私とはどう足掻いても相容れない性質です。ふふふ、私の事を侮って、非合法手段で仕掛けてくるなら、一瞬で殴り潰してあげるのですけど」
「最悪の部類の神じゃない……」
「あ、依頼した方の神の事情は知りません。貰うものは貰っていますし、治療の条件もちゃんと折り合いをつけたものですから、これ以上気にするべきではないとして気にしませんでした」
神は笑顔で事情を話している。
だが、目が笑っていない。
その邪神とやらが非合法の手段で仕掛けて来たなら、大層酷い事になるであろうと、オニオンもドーフェも察するような雰囲気を出している。
「ノノ・フローリィをハリ・イグサと組み合わせたのは、双方の実力、性格、方向性と言ったものを鑑みた結果です。まあ、ハリ・イグサの立ち位置については他の魂を宛がう事も出来ましたが、逆に言えばハリ・イグサでも何も問題はないのです」
「だから偶然、ですか」
「ええそうです。面白くなりそうと言うのもありますが」
「ハリの奴も大変なことに巻き込まれたなぁ……」
話は続く。
「さて、オニオン・オガ・マスルロド・キドー。ドーフェ・ヒトモブリ。貴方たち二人にこうして事情を話したのは、追加の依頼があるからです」
「「……」」
「ノノ・フローリィに呪いをかけた邪神は下劣の極みのような邪神です。そして、この手の邪神は私の手元に魂があるぐらいでは諦めないし、こういうのに限って非合法な手段では勝てないのを、仕掛ける前に悟ってきます。となれば、合法的に、正面から、客として、あの二人の決闘相手として化け物などを寄こしてくる事でしょう。私は立場上それを受けねばなりませんが、ただ受け入れるのも気に入りません」
神はオニオンとドーフェのPSSに幾つかの情報を送る。
「で、そういう時には二人にアドバイスをしろと?」
「私たちは情報収集をしろと言う事かしら?」
「ええ、そう言う事です。優秀な闘士はこういう時に話が早くて助かりますね。報酬はその時々で別個に払いましょう。さて、依頼を受けてくれますか?」
そしてオニオンとドーフェは一度視線を交わした後に頷き合う。
「仰せのままに、我らが主。報酬ありで面白い厄ネタに関われるなら、喜んでだ」
オニオンは獰猛な笑みを浮かべながら是と答えた。
「お受けいたします。興行主様。そう言う性格の悪い神の鼻を明かすのは、とても楽しそうだと私たちは思いますので」
ドーフェもどことなく暗さを感じる笑みを浮かべながら是と答えた。
「よろしい。では手付金は別に渡しますが、お祝いとして、今日のこの場での飲食費用は私が持ちましょう。ドーフェ・ヒトモブリ、外の貴方たちも招いて構いませんよ」
「「「感謝します興行主様」」」
「おー、騒がしくなるなこりゃあ……」
その日、とある酒場の売り上げは通常の数倍になったと言う。
そして、ハリとノノの二人が知らない場所で、確かに何かが動き始めていた。
10/01誤字訂正




